安保法制は国民からの反対の声が日に日に強まっている。しかし、安倍晋三首相はこれら国民からの声に耳を傾けようとはせず、頑なに安保法制成立に邁進している。なにがそうさせているのだろうか。その背景を冷静に分析している記事があった。転載して紹介する。
分かれば分かるほど、安保法制は廃案にすべきだ。加えて、安倍晋三首相は退陣すべきとの思いを強くする。
集団的自衛権、安倍政権はなぜそこまで急ぐのか?
http://www.mag2.com/p/news/24783
MAG2NEWS
支持率が低下しても、何かにとり憑かれたように集団的自衛権にこだわる安倍政権。その理由はなんなのでしょうか。『未来を見る! 「ヤスの備忘録」連動メルマガ』が様々な角度から分析しています。
アメリカの圧力
実は安倍政権が「集団的自衛権」の成立を急ぐ背景には、アメリカの強い圧力があったからだとの見方が次第に広まりつつある。
たとえば、米国在住のノンフィクション作家で、「ニューズウィーク日本版」のニューヨーク支局長も務めた青木冨美子氏は、8月4日、日本記者クラブで講演し、次のように述べている。
「戦後の米占領時代はGHQが日本のグランドデザインを決めていたが、今でもそのようなことが続いているかもしれない。現在論議されている新安保法制も、現在の事態に至るまでには誰かがグランドデザインしてこんな感じになっていると思う。たとえば集団的自衛権で言うと、(早期の実現へ)「憲法を変えなくてもいい」と、かつてアーミテージ(元米国務副長官)が言っていたことだ。積極的平和主義などという言葉も、(英語の)翻訳のような気がする。駐日米国大使館やCIA(米中央情報局)の中に、誰かキレ者がいてやっているのかなと思う。今になって思うともっと早めに気が付いていればよかったと忸怩たる思いはある」
このように述べ、「集団的自衛権」の成立には「ジャパン・ハンドラー」のリチャード・アーミテージやCIAがかかわっている可能性を示唆している。
「第3次ナイ・アーミテージレポート」
一方、これは青木氏の憶測ではなく、ジョセフ・ナイとリチャード・アーミテージなどのアメリカの「ジャパン・ハンドラー」の実質的な関与があったことが示す文書がすでに公開されている。それは、2012年夏に発表された「米日同盟:アジアに安定を定着させる」というレポートで、通称「第3次ナイ・アーミテージレポート」と呼ばれているものだ。これは、軍産複合体のシンクタンクで、「ジャパン・ハンドラー」の拠点の「戦略国際問題研究所(CSIS)」が、日米同盟の提言としてまとめたものである。
2012年夏といえば、民主党の野田政権の失速が始まっており、政権交代への期待が高まっていた時期だ。現在の安倍政権は、この年の12月の総選挙で自民党が圧勝し成立した。
「集団的自衛権」に関して、このレポートには明確に次のように書かれている。
「日本の集団的防衛の禁止に関する改変は、その矛盾をはっきりと示すことになるだろう。政策の変更は、統一した指揮ではなく、軍事的により積極的な日本を、もしくは平和憲法の改正を求めるべきである。集団的自衛の禁止は同盟の障害である。3.11は、我々2つの軍が必要な時にいかに軍事力を最大限に活用できるかを証明した。平和時、緊張、危機、及び戦争時の防衛範囲を通して完全な協力で対応することを我々の軍に許可することは責任ある権限行動であろう」
このようにこのレポートでは、「集団的自衛の禁止は同盟の障害である」と明確に述べ、憲法改正、ないしは「集団的自衛権」を早急に成立させるように求めている。
自衛隊の活動
では、「集団的自衛権」で海外派遣が可能になった自衛隊はどのような活動を展開することが要請されているのだろうか? これも明確に示されている。以下である。
「ホルムズ海峡を閉鎖するというイランの言葉巧みな意思表示に対して、すぐさま日本はその地域に掃海艇を一方的に派遣すべきである。日本は、航行の自由を保証するために、米国と協力して南シナ海の監視も増やすべきである」
ホルムズ海峡の掃海艇の派遣、そして南シナ海における中国の監視活動を米軍とともに実施せよという要求である。
さらに自衛隊には広い活動範囲が求められ、以下のようにある。
「東京はイランの核開発などによってもたらされた、海賊行為に対する戦闘、ペルシャ湾の海運業の保護、シーレーンの確保や地域の平和の脅威への対処といった、多国籍の取り組みに積極的に参加すべきである」
ここでは、「海賊行為にたいする戦闘」とあり、自衛隊の任務がもはや後方支援には限定されない「戦闘行為」も含むことが示唆されている。
政府答弁と基本的に同じ
このようにこのレポートでは、「集団的自衛権」の適用地域として、特に「ホルムズ海峡の掃海艇派遣」と「南シナ海における中国の監視活動」の2つをあげている。これは、「集団的自衛権」の必要性を説明する政府の国会答弁と基本的に同一である。
これは、「集団的自衛権」成立の要請の圧力がアメリカからあり、いま日本政府はこれに基づいてい動いていることを如実に示してはいないだろうか? 「集団的自衛権」への方針変更は日本政府の単独の判断ではない。
それにしてもなぜここまで急ぐのか?
だが、このように「集団的自衛権」がアメリカの圧力の産物だとしても、なぜ安倍政権がこの成立をここまで急ぐのか説明にはならない。たっぷりと時間をかけ、憲法に違反しないように行う方法はいくらでもあったはずである。
たとえば、2004年に成立した「イラク特措法」がある。この法律は期限が決まった時限立法で、戦闘が行われていない地域に、「人道支援活動」を実施する目的で自衛隊を派遣するものであった。
もちろんこのときも議論はあったが、これが違憲であるとする議論はほとんどなく、国民的な反対運動は起こらなかった。「人道支援活動」の一環として戦闘が行われていない地域に自衛隊が派遣されたので、少なくとも建前は、憲法に禁止されている軍隊の海外派兵ではなかったからだ。これも「ジャパン・ハンドラー」などのアメリカからの要請であったことは間違いない。
もし「ホルムズ海峡の掃海艇派遣」と「南シナ海における中国の監視活動」の2つを要請されているのであれば、2003年の「イラク特措法」と同じく、期限が決まった時限立法とし、戦闘行為には一切かかわらないことを条件にした純粋な後方支援活動として、これらの地域に限定して実施する法律を成立すればよかったはずだ。そのような方法であれば、違憲となる「集団的自衛権」を持ち出す必要性はなかったはずだ。
ところが今回は、時限立法ではなく恒久法として「集団的自衛権」を成立し、世界のあらゆる地域に米軍と一緒になって自衛隊を派兵することを可能にしている。これは明白に憲法に違反している。このため多くの国民の怒りを買うことになったのである。
安倍政権はなぜあえてこのようなことを急いで行っているのだろうか? その本当の目的はなんだろうか?
「日本会議」の明確なアジェンダ
時限立法としてではなく、恒久法として憲法にからめて「集団的自衛権」を持ち出した理由は、安倍首相が現行の憲法で「集団的自衛権」を規定の事実にしてしまい、これによって、自衛隊を将来いつでも海外派兵できる「国防軍」にするきっかけにしたいという野心からではないかと見られている。
たしかに、安倍首相の個人的な野心が背景にあることは間違いないだろう。しかしながら、急ぐべき理由はこれだけではないことは、安倍政権の最大の支持母体である「日本会議」の明確なアジェンダを見ればだいたいはっきりする。
「日本会議」がどのような存在なのかは、第338回の記事に詳しく配信したので詳述はしないが、「日本会議」とは戦前をモデルにした憲法に改正し、「天皇制国家」の復権を目指す右翼的な組織が結集した一大プラットフォームのことである。
「日本会議」のサイトやその他の文書から、この組織は安倍政権こそ憲法改正を実現できる最後の機会ととらえていることが分かる。そのため、憲法改正は安倍首相の任期中になんとしてでも達成しなければならない最重要課題である。それには、2016年7月に行われる参議院選挙で自民党が3,000万票を越える得票で圧勝し、すでに自公が絶対安定多数の衆議院と合わせて憲法改正に必要な3分の2の議席を確保する。そして一気に憲法改正を実現するという計画だ。
安倍政権は、「日本会議」のこのアジェンダを念頭において動いていることは間違いない。とするなら、「集団的自衛権」の成立をことのほか急ぐ理由もこの辺にありそうだ。
憲法96条の改正
もちろん、参議院選挙で自民がたとえ圧勝したとしても、憲法改正のハードルは高い。憲法96条では、衆参両院の3分の2の賛成と、国民投票における過半数の賛成を必要とする。現在自民党は衆議院で291議席を獲得しているが、3分の2の317議席には届いていない。公明党の35議席を合わせると326議席となり3分の2に達するが、公明党が反対した場合、憲法改正の発議はできない。
そのため、憲法96条を先に改正して衆参3分の2の賛成が必要とする改革条件を緩和し、過半数の賛成があれば憲法改正を発議できるように変更することを狙っている。
いま参議院では、自民は242議席のうち115議席しか獲得していない。過半数にも届いていない。もし2016年7月の参議院選挙で自民党が圧勝して3分の2の議席数になれば、憲法96条の改正は容易に実行できる。それを実現した後、一気に憲法改正に乗り出すという意図だ。これが「日本会議」のアジェンダに沿った自民党のプランだ。
「集団的自衛権」の既成事実化と「国防軍」
そして、憲法改正をスムーズに進めるための方策として見られているのが「集団的自衛権」の早期の成立である。
もし2016年7月の参議院選挙までに「集団的自衛権」を恒久法として成立できていれば、自衛隊の海外派兵はいつでも可能となる。これは、もっぱら「専主防衛」を基本とする「自衛隊」を、先制攻撃もできる他の国と同じような「国防軍」に実質的にしてしまうことを意味する。つまり「集団的自衛権」の成立は、「国防軍」の既成事実化だと見てよい。
もちろん「集団的自衛権」には、国民の予想以上の反対があり、自民党の支持率は大きく下がっている。このままの情勢では、たとえ安倍政権が来年まで続いたとしても、来年の参議院選挙で過半数の議席を獲得できる可能性はかなり低い。ということは、「日本会議」のアジェンダにある憲法改正は困難だということになる。
他方、自民党の掲げる憲法改正の重要なポイントのひとつになっているのは、「自衛隊」の「国防軍化」である。もし自民党が来年の参議院選挙で負けたとしても、いまの時点で「集団的自衛権」を成立させておけば、これは実質的に達成したことになる。
米軍産複合体の支持と従属国家化の進展
おそらくこれが、安倍政権が「集団的自衛権」の成立を急いでいる理由であろう。
また、もともと「集団的自衛権」は米軍産複合体の日本に対する要求項目の1つである。ということは、これが成立すると、「日本会議」と安倍政権が目指す憲法改正に米軍産複合体の間接的な支持が得られる可能性が高くなる。
来年の参議院選挙までには憲法改正に乗り出す準備ができていなければならない。いま安倍政権が「集団的自衛権」の成立を急ぐのには、米軍産複合体の横槍が入らないように彼らの支持を固めておくという理由もあることだろう。
いずれにせよ、米軍産複合体の要求と支持におもねることでアメリカの従属国家化の方向は強化される。
このように見ると、「日本会議」と安倍政権が目指す「日本の独立」とは、もはや実質的に独立国とさえ言えない状況にまで対米従属を徹底的に強化しながら、米軍産複合体の保護のもと、「天皇主権」による偉大な日本という幻想に酔いしれる自由を享受したいということではないのだろうか? 少なくとも筆者にはそのように見えてしかたがない。
著者/ヤス
早稲田大学卒。企業の語学研修、IT関連研修、企業関連セミナー、コンサルティング等を担当。世界の未来を、政治経済のみならず予言やスピリチュアル系など利用可能なあらゆる枠組みを使い見通しを立てる。ブログ『ヤスの備忘録』で紹介しきれない重要な情報や分析をメルマガで配信。
金森
コメントする