金沢の市街地(城下町)は、西は犀川、東は浅野川という二つの大きな川に挟まれている。これら川の両外に茶屋街がある。
ひがし茶屋街は浅野川の外側にある茶屋街で浅野川大橋と上流に掛かる天神橋の中間にある。天神橋は卯辰山への登り口に位置しておりひがし茶屋街からも近い。
ひがし茶屋街の端、天神橋寄りを卯辰山に少し登ったところに観音院がある。この観音院に上る坂を「観音坂」という。
観音院の隣に浅田屋がやっている日本料理の松魚亭(しょうぎょてい)やステーキハウスの六角堂がある。松魚亭でランチした時など、車を松魚亭の駐車場に止めさせてもらってひがし茶屋街を散歩したりもする。
この観音坂の中程に「いちえ」という喫茶店がある。いつごろだったか、古い町家を改築していた。改築も終わったある日、いつもの様に横を通ったときのこと、家の入り口左隅に「一期一会」と書かれた小さな置物を目にしたことがある。なにかのお店かも知れないと思ったが、次に通ったときにはその置物はなかった。
そんなことも忘れ、その家の存在も気にならなくなった頃。歳の頃でいえば70歳位の男性二人が、観音坂を下りたり登ったりしているのに出くわした。
「どうされました? 」
と声をかけたところ、「いちえ」というジャズ喫茶を探している。なにかの雑誌で観音坂の中程にあると知り訪ねてきた。しかし見当たらなくてウロウロしているとのことだった。
そう言われても観音坂で喫茶店と思しき店など見掛けたことはない。しかし「いちえ」という響きで「一期一会」と書かれた置物を思い出した。「いちえ」とは「一期一会」の「一会」かとたずねた所、そうだとのことだった。ならばあの家が喫茶店なのだろうとその家の前まで案内して別れた。ところが、五分もしない内に二人は坂を上ってきた。どうだったかと聞いてみた。確かに「いちえ」だったけれども、休みだったとのことだ。
後から分かったことだが、営業日は土日祭日だけ。ただ土日祭日でも必ず営業していると言うわけでもないとのことだ。今は営業している日には「いちえ」と書かれた小さな板が入り口左隅に刺さっている。
そんな気ままな喫茶店が観音坂の中程にある。いまだ私は入ったことはない。
金森
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