周知のように、最近、悪質なつきまといや無言電話等の嫌がらせ行為を執拗に繰り返す、いわゆるストーカー行為が社会問題化しています。本法が制定された前年である1999年度において、何らかのストーカー被害を受け、警察に相談した件数は、過去最高の80,000件以上となりました。
しかし、従前は、どのような悪質なストーカー行為であっても、ストーカー行為の多くは「復縁や交際を迫る」ものであり、加害者と被害者が面識のあるケースが多いため、「民事不介入」を理由に警察は動かず、傷害事件や、軽犯罪法違反などの具体的な刑事事件に発展しない限り対応しない、という後手に回った防御方法しかできなかったのが実情でした。
ところが、ストーカー行為に対して、具体的事件が発生してからしか対応できなかったため、中には殺人事件などの最悪の事態に発展するものが生じ、ここで、ストーカー行為を規制する必要性が社会的に認知されてきました。
そこで、ストーカー行為がこのような重大な刑事事件に発展する前の初期段階から法令を適用し、必要な規制を行うと同時に、被害者に対する援助の措置等を定め、ストーカー被害を受ける個人の身体、自由、及び名誉に対する危害の発生を防止し、併せて国民全体の生活の安全と平穏を守ることを目的として本法は制定されました。
ここでいう「個人の身体、自由及び名誉に対する危害」の意味は、個人の身体を傷つけられることや、義務のないことを強要されることや、名誉毀損的な行為をされること、等ということです(具体的には2条を参照)。また、保護法益として、個人の身体・自由・名誉という個人的法益のほか、併せて社会的法益として「国民の生活の安全と平穏」をもあげてあることも本法の特質でしょう。
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