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 第2条(定義)
1 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たさなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
    一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。

    二 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

    三 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。

    四 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。

    五 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること。

    六 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。

    七 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

    八 その性的 羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。
2 この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(前項第1号から第4号までに掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう。



1. 本条の趣旨
本条は、本法の規制の対象となる2種類の行為の定義を定めた規定です。1項が「つきまとい等」の概念を、2項が「ストーカー行為」の概念を、それぞれ定めています。これは、犯罪構成要件を明確にするためです。

2. 行為の主体
「つきまとい等」及び「ストーカー行為」の主体は、限定されていません。従って、男性のみならず女性も主体となり得ます。

3. 目的
「つきまとい等」及び「ストーカー行為」は、次の(1)または(2)のいずれかの目的をもって行われる必要があります。

    (1) 特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情を充足する目的
    (2) 特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的
4. 行為の客体
「つきまとい等」及び「ストーカー行為」は、行為者の恋愛、好意若しくは怨恨感情の対象となった特定の者自身に対して行われる場合の他、その特定の者と一定の関係にある次の(1)から(4)に掲げるいずれかの者に対して行われる場合も含まれます。
    (1) 特定の者の配偶者
    (2) 特定の者の直系親族同居の有無は問いません。
    (3) 配偶者、直系親族以外の特定の者と同居している親族
    (4) 特定の者と社会生活において密接な関係を有する者例えば、借家の大家さん、職場の上司、学校の同級生等がこれに当たると思われます。
5. 「つきまとい等」の概念(本条1項)
本条1項は、1号から8号として、以下の8類型の行為を掲げ、これらを「つきまとい等」と定めています。
    (1) つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること(同項1号)

    (2) その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと(同項2号)告知の方法及び知り得る状態に置く方法については限定されていません。警視庁は、「今日はAさんと一緒に銀座で食事をしていましたね」と口頭・電話・電子メール等で伝える場合を告知の例として、同内容のメモを自転車の前カゴに置くような場合を知り得る状態に置く例として挙げています。

    (3) 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること(同項3号)例えば、「今までプレゼントした物を弁償しろ」と請求する場合等が考えられます。

    (4) 著しく粗野又は乱暴な言動をすること(同項4号)警視庁は、大声で「バカヤロー」と粗野な言葉を浴びせる場合や家の前で車のクラクションを鳴らす場合等を例として挙げています。

    (5) 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること(同項5号)警視庁は、いわゆる無言電話を前段の例として、拒否しているにもかかわらず短時間に何回も電話やFAXをする場合を後段の例として挙げています。

    (6) 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと(同項6号)例えば、使用済みの下着を送りつけたり(「送付し」)、藁人形を表札に刺しておくような場合(「知り得る状態に置く」)等が考えられます。

    (7) その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと(同項7号)例えば、「お前は誰とでも寝る淫売だ」と口頭・電話・電子メール等で伝えたり(「告げ」)、同内容のビラを近所の電柱に貼り付けるような場合(「知り得る状態に置く」)等が考えられます。

    (8) その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと(同項8号)警視庁は、猥褻な言葉を電話や手紙で伝える場合を前段の例として、猥褻写真を送りつけるような場合を後段の例として挙げています。
6. 「ストーカー行為」の概念(本条2項)
「ストーカー行為」とは、同一人に対し、前項1号から8号に定めた「つきまとい等」を繰り返して行うことをいいます。必ずしも同類型の「つきまとい等」を繰り返す必要はありません。ただ、1号から4号に掲げる4類型の「つきまとい等」に関しては、要件が加重されており、次の(1)から(4)に掲げるいずれかの方法により繰り返し行った場合に限って「ストーカー行為」に該当します。
    (1) 相手方に身体の安全が害される不安を覚えさせるような方法
    (2) 相手方に住居等の平穏が害される不安を覚えさせるような方法
    (3) 相手方に名誉が害される不安を覚えさせるような方法
    (4) 相手方に行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法
(矢野京介)