・組織従属主義の打破。
日本の教育を悪くした一つの原因は、一つの組織へ入る事を極めて重視する文化、つまり入口文化である。入学式が大事にされ、落第なしに卒業できる学校、入学試験に合格してしまえば卒業できる大学、就職試験を突破出来れば定年までいられる企業。その典型が入学試験である。
こうした入口文化が顕著になったのは、昭和四〇年頃からである。
一つの組織に入って、そこで人生を終える。
従って、組織の運命と自分の運命を一緒にしてしまう。
組織と個人の運命が背反する時は、他を犠牲にして組織の命運に賭ける。
日本の教育を変えるには、こういう組織従属主義を打破しないとならない。
・一幕二場の人生シナリオ
今の日本が豊かといわれながら、閉塞感が漲っているのは、今の子供達、あるいはその若い親達の考えている人生のシナリオが一幕二場の貧寒なものだからである。
生まれてから二二歳までは学校という組織、これが第一場で、ここでは教え込まれ、詰め込まれ、それを我慢して身に着ける。ここで苦労したら、人生の第二場であるどこかの組織に入って、幸せになれると信じて、他人より一点でも二点でも上に上がろうとする。
幸せな二場を過ごすには、大企業あるいは安定した企業に入る事である。
そのためには、良い大学に入らないと入社試験の機会すら与えられない。
そのためには良い高校、有名私立中学にはいらなければならないという風潮が四〇年代、五〇年代に一挙に広がり、人生一幕二場のシナリオが日本中を覆い尽くした。
子供たちもそれを知っていて、第一場はそんなものかと思ってきたが、少しでも個性があり、志のある子供は、何故そんなドラマをしなければならないかを考える。
まして、幸せな第二場を保障する筈の大企業も銀行も倒産し、大蔵省も叩かれる時代に入ると、何のために第一場で苦労するのか判らなくなってくる。
だから、根性のある子供ほど、学校という組織を嫌いはじめてきた。ところがおとな達は、組織を離れてはダメだと頑張っているのが現在である。
桜井修・元三井住友信託銀行社長 著
(出典『昭和と映画と人生と』春吉書房、ただし定価25000円)
金森
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