ひとつ前の記事で「月満つれば則ち虧く」を書いた。
わたしと同じょうな考えを持っているひとは少なくとも一人はいる。以下に、ロイターの記事を紹介する。
「大胆な経済対策」で日本は悪循環突入か
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-masashi-murata-idJPKCN0ZS0PL
[東京 12日] - 安倍首相は11日、自民党本部で会見し、デフレ脱却に向け内需を下支えできる総合的かつ大胆な経済対策を実施する意向を表明した。今回も各方面から様々な評価が示されようが、先行きの時間軸によって見方は分かれるだろう。目先を重視すれば望ましいものに見えるかもしれないが、中長期に視野を広げれば批判的な見方が強まる。
各種報道によると、今回の経済対策は月内にもまとめられ、2016年度第2次補正予算案として秋の臨時国会に提出される。事業規模は一般歳出5―7兆円と財政投融資3―5兆円の計10兆円程度の見込みだ。税収の伸び悩みで財源が不足することから、建設国債の追加発行も余儀なくされるだろう。
事業規模が2012年度補正予算(20兆円)以来の大きさということもあり、今回の経済対策を肯定する見方も多い。内閣府によると、2016年1―3月期の国内総生産(GDP)ギャップは金額換算で年率約6兆円の需要不足だが、今回の経済対策で需要不足の多くは解消される。足元では物価が伸び悩み、インフレ期待も鈍化が続いているが、GDPギャップがゼロに近づけば、デフレ脱却の期待感も高まりやすい。
今回の経済対策でアベノミクスの再起動を期待する声も外国人投資家を中心に強まっているようだ。円債利回りは、アベノミクス第1の矢である日銀による大胆な金融緩和によって残存期間15年までマイナスが常態化。こうしたなかで、第2の矢である財政政策が拡大されることは、金融緩和と財政拡大のポリシーミックスで景気が加速した2013年のイメージと重なる。
アベノミクス再起動の期待感は為替市場で強く表れている。11日午後2時に安倍首相が会見を始めると、ドル円は円売りの動きが強まり、101円台前半から102円ちょうど近辺に上昇。海外市場に入ってもその動きは続き、翌12日未明には102円台後半まで伸長した。
東京市場に入ると、102円台半ば近辺に反落する場面もあったが、仲値公示後は再び円売りが優勢となり、午後には103円台半ば近辺と、英国民投票の開票結果が発表された6月24日以来の高値に達した。12日には日経平均株価が、6月24日以来となる1万6000円の大台を回復しており、このまま円安・株高の動きが続けば、アベノミクス相場を期待する声が大きくなるかもしれない。
<「ヘリマネ」と本質的には同じ図式>
このように今回の経済対策は、総じて好ましいように見えるが、中長期的には問題が多い。第3の矢である成長戦略の推進が道半ばであるにもかかわらず、再び第2の矢(財政政策)が打ち出されたことで、日本の産業構造の転換が遅れるリスクが高まった。
5月の有効求人倍率が1.36倍と1991年9月以来の高水準に達するなど、日本経済の人手不足感が強まっているなか、今回の経済対策で生産性が低い建設業に労働力がさらに投入されれば、他産業での労働不足を通じ日本経済全体の生産性向上を妨げるだろう。
建設業に長く従事すればするほど、他産業への移動が難しくなる傾向にあることから、経済対策の効果が剥落するとともに建設業に未稼働労働力が滞留する恐れも高まる。その結果、失業対策としての公共事業が続けられ、日本経済の建設業への依存度が高まり、国際競争力がさらに低下する事態も考えられる。
安倍首相は11日の記者会見で、ゼロ金利環境を最大限に生かし、財政投融資を積極的に活用すると述べ、財投貸出金利を0.1%から0.01%程度に引き下げる意向を示した。これにより財政投融資の拡大が見込まれるが、小泉内閣から縮小傾向にあった政策金融が再び肥大化する恐れも高まった。数少ない有望産業と見られている金融業で公的機関による民業圧迫も懸念される。
今回の経済対策では家計への現金や商品券の支給は見送られるようだが、日銀が償還時の損失を容認しながら日本国債を買い入れるなか、日本政府が国債増発で歳出を拡大する図式は、昨今話題となっているヘリコプターマネーの図式と本質的に変わりはない。今回の経済対策が(短期的に)うまく行けば行くほど、その効果が剥落するであろう1年後くらいに(本質的にはヘリコプターマネーと変わりがない)新たな経済対策が過去の成功体験を根拠に打ち出されるだろう。日銀の金融緩和が出口に向かうことは今後数年、考えにくく、時間とともにヘリコプターマネーへの依存度が高まることも十分に考えられる。
日本の潜在成長率は、大規模な移民受け入れが容認されることがなければ、労働力人口の減少という低下圧力を受け続けることになる。潜在成長率の低下に歯止めをかけるカギは、資本ストックの拡大と全要素生産性(TFP)の上昇だ。
だが、公共投資の積み上げは、短期的には資本ストックの拡大につながるものの、公的部門の依存度が高まることで民間部門による自発的な資本ストックは抑制されるだろう。今回の経済対策の実施で成長戦略によるTFP上昇も期待しにくくなった。
こうなると、潜在成長率の低下が続くことになり、金融緩和による景気押し上げ効果も弱くなる。結果として、財政拡大に対する依存度が高まり、潜在成長率の低下はさらに続く。中長期で見た日本経済は悪循環に陥ったのかもしれない。
*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。著書に「名門外資系アナリストが実践している為替のルール」(東洋経済新報社)
(編集:麻生祐司)
金森
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