MAG2 NEWS の記事を転載。
http://www.mag2.com/p/news/123121
自民党の放送弾圧を批判したBPO有識者の勇気
自民党の国会議員の大多数は、神道政治連盟や日本会議のメンバーである。どうやら、いまやこういう極右団体に所属していないと、党内で肩身が狭いようだ。
自民党政調会に「情報通信戦略調査会」というのがある。昔から存在しているわけではない。昨年6月ごろに誕生したばかり。何を調査するのか疑問だが、早い話、メディアを監視し、クレームをつけて、報道に圧力をかけるのが主目的だろう。しかも、委員16人のうち、14人が安倍晋三を会長とする神道政治連盟国会議員懇談会のメンバーだ。もちろん、麻生太郎、安倍晋三が特別顧問をつとめる日本会議国会議員懇談会にも、このうち多数が加入していると思われる。
情報通信戦略調査会の存在が広く世に知られたのは今年4月17日に起きた「放送弾圧事件」によってである。
テレビ朝日の「報道ステーション」における古賀茂明の官邸批判発言が許せぬというので、テレ朝幹部を呼んでつるしあげようということになった。が、1社だけだと、あまりにも意図が見え見えだ。もちろん、彼らとて、言論弾圧になるという自覚くらいはあるだろう。
そこで、NHK「クローズアップ現代」の「やらせ」問題もいっしょに取り上げることにした。まったく性格の異なる案件なのだが、「真実が曲げられて放送された疑いがある」という理由で一括りにした。テレビ朝日とNHKの経営幹部を自民党本部に呼びつけて、「事情聴取」するという威嚇が目的なのだから、彼らにとって理由は適当でいいのだ。「やらせ」の一件は明らかな不祥事であり、それをからませれば、テレビ局への不当介入と世間は受け取らないだろうという考えがあったかも知れない。
ところが、このほど、意外なところから自民党情報通信戦略調査会に対する攻撃の火の手が上がった。NHK「クローズアップ現代」の「やらせ」問題について、「重大な放送倫理違反があった」との意見書を出した第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」だ。その意見書において、「情報通信戦略調査会」を名指しし、「政権党による圧力そのものである」と同じ文書のなかで非難したのだ。これは、権力の饗宴にひたっていた自民党議員たちの酔いを醒ますには十分であっただろう。
自民党の「圧力」という意味では、「報道ステーション」や古賀茂明個人に対しても同様であり、「クロ現」に関するBPOの意見がそのまま当てはまる。
この稿は、クロ現のやらせ問題をテーマとしていないので、それについては省くことにする。あくまで、問題にしたいのは自民党のテレビ局に対する弾圧である。そこで、BPOが11月6日に発表した「NHK総合テレビ『クローズアップ現代』出家詐欺報道に関する意見」のうち、最後の項に付記された総務大臣と自民党の姿勢に対する見解のポイントをまとめてみた。
まず高市早苗総務大臣が「クロ現」に関し文書でNHKに厳重注意をした件。これについて、BPOは「個々の番組の内容に介入する根拠がない」と指摘した。放送法は「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保する」という原則を定めている。これを誤解しているというのだ。
「放送の不偏不党」「真実」や「自律」は、放送局に課せられた義務ではない。この原則を守るよう求められているのは、政府などの公権力である。政府が放送に介入することを防ぐために「放送の不偏不党」を保障し、政府が「真実」を曲げるよう圧力をかけるのを封じるために「真実」を保障し、政府による規制や干渉を排除するために「自律」を保障しているのである。
ここは放送法の解釈に関する重要な部分である。公権力が番組に圧力をかけたり介入することがないよう保障しているのが放送法であり、放送倫理を業界が自主的に守るためのチェック機関としてBPOが存在する。高市総務大臣はこの点についてほとんど理解していないように思える。
では、自民党についてはどうか。番組に干渉する資格が自民党にはないのだと、下記のように述べている。
自民党情報通信戦略調査会がNHKの経営幹部を呼び、「クロ現」の番組について非公開の場で説明させるという事態も生じた。
しかし、放送法は、番組編成の自由を明確にし「放送番組は法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」と定めている。
「法律に定める権限」が自民党にないことは自明であり、自民党が、放送局を呼び説明を求める根拠として放送法の規定をあげていることは、法の解釈を誤ったものと言うほかない。
今回の事態は、放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである。
自民党には放送局の幹部を呼んで説明を求める権限は放送法上、まったくないという見解である。したがって、報道ステーションの古賀発言に関しても、同じように、幹部に説明させる権限はなく、単なる嫌がらせや圧力といったたぐいに過ぎないのだ。
要するに、自民党政調会の調査会ではあっても、その実態は「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」(大西英男議員)などといって憚らない「文化芸術懇話会」のレベルと変わらない。そのうえ、彼らの大半は神道政治連盟国会議員懇談会の面々である。この団体がめざすものがホームページに載っている。
- 世界に誇る皇室と日本の文化伝統を大切にする社会づくり。
- 日本の歴史と国柄を踏まえた、誇りの持てる新憲法の制定。
- 日本のために尊い命を捧げられた、靖国の英霊に対する国家儀礼の確立。
- 日本の未来に希望の持てる、心豊かな子どもたちを育む教育の実現。
- 世界から尊敬される道義国家、世界に貢献できる国家の確立。
皇室、伝統文化、国柄、英霊、道徳...。「美しい日本を守り伝えるため、誇りある国づくりをを合言葉に、提言し行動する」という日本会議と理念は共通している。こういう信条を持つ議員ばかりのサークルが、アンチ安倍の姿勢を鮮明にする古賀を排撃し、コメンテーター選びまでテレビ局に睨みをきかせようという構図は明白であった。
調査会の会長である川崎二郎はテレ朝とNHKの幹部を呼びつける前に、BPOについて、こう語っていた。
「(報道ステーションで)名誉を傷つけられた菅義偉官房長官がBPOに訴えることになれば、それは正規の方法だ。BPOが『お手盛り』と言われるなら、少し変えなければいけないという思いはある。テレビ局がお金を出し合っている機関ではチェックができないならば、独立した機関の方がいい」
NHKと民放がつくった第三者機関であるBPOに対し、あらかじめ脅しをかけるような発言だ。ここまで言っておけば、まさかBPOが自分たちに歯向かうようなことはするまいと高をくくっていたかもしれない。
しかしBPOの現メンバーは、彼らが思うほど腰抜けではなかった。委員長代行の是枝裕和(映画監督)や、香山リカ(精神科医)、斎藤貴男(ジャーナリスト)ら10人は、権力の統制に対する反骨心を、意見書にこめた。テレビ局側に立つというのではなく、あくまで市民目線で、権力サイドの高圧的な姿勢に警鐘を打ち鳴らしたのだ。
おそらく、彼らの意見書に対して、自民党は報復を仕掛けてくるだろう。
「BPOが『お手盛り』と言われるなら、少し変えなければいけないという思いはある」と語った川崎二郎の恫喝は、BPOの委員入れ替えなどの圧力として顕在化してくるかもしれない。だが、BPOの現メンバーは、それを覚悟のうえで、国民のために、言論の自由のために必要なことをしたのだ。われわれ国民は今後の自民党の出方を注視する必要がある。
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『国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋
著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
金森
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