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北陸新幹線を喜べない富山県民の複雑な思い

  • 雑談

「金沢独り勝ち」をどう克服するか

東洋ONLINEから転載 http://toyokeizai.net/articles/-/79364

3月14日に開業した北陸新幹線。すべての沿線がお祭りムードに沸いているわけではない(写真:尾形文繁)

3月14日に開業した北陸新幹線が快走を続けている。JR東日本が7月下旬に発表した、お盆の指定席予約状況によると、北陸新幹線を走る「かがやき」「はくたか」「あさま」の利用は前年比257%と大幅に増えた。開業3カ月間の乗客は延べ約246万人と在来線当時の3.3倍に達し、想定以上の走り出しとなった。

だが、過去の整備新幹線の開業と同様、沿線の表情は一様ではない。「金沢独り勝ち」を見出しにしたニュースが流れる一方、手放しで喜べない事情を抱えつつ、克服を試みる都市もある。地域づくりの課題とヒントを、沿線の光景から拾ってみた。

目指すは「滞在型観光の深化」

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開業翌日の金沢駅・鼓門

ホームとコンコースを埋め尽くす人と熱気。待望の北陸新幹線をぜひ一目、という市民の思いがあふれかえる。開業翌日、3月15日午前11時すぎの金沢駅。頭上には、10年前からこの日を待ちわびていた金沢駅のシンボル、鼓門と「もてなしドーム」が誇らしげにそびえる。近江町市場、金沢21世紀美術館といった観光スポットも人でごった返していた。

開業14カ月前の2013年12月、筆者が調査で金沢を訪れた時には、すでにまち全体がカウントダウン・モードに包まれていた。無理もない。東京以西で日本海側最大の都市へ高規格鉄道が乗り入れ、首都圏と直結する。上越新幹線・越後湯沢乗り換えで最短3時間51分だった東京―金沢間が、2時間28分に。時間短縮効果と地域社会へのインパクトは、1982年の東北新幹線・大宮開業時の仙台市に匹敵する。

ヒアリングに対応した金沢市プロモーション推進課の担当者は「私たちが目指すのは、まちのたたずまいや市民の暮らしを1?2カ月じっくり味わっていただく、滞在型観光の深化です」と力を込めた。開業に備えて市内の宿泊施設を調査したところ、ヨーロッパ系の外国人観光客には、分厚いガイドブックを携えて長期滞在している人々が少なくないことが分かった。彼らは金沢の文化や歴史の知識を蓄えて来訪し、まちを隅々まで堪能していたという。そんな観光スタイルを、国内からの旅人にも定着させたい――。建築物をめぐる「アーキテクチャー・ツーリズム」や、技芸・工芸を体験する「クラフト・ツーリズム」など、滞在型観光の受け皿として、多彩なメニューも整えている。

想定を超えた観光客が押し寄せるなか、手軽な旅を印象づける「ちょっと、金沢まで」というキャッチフレーズと、地元が目指す「滞在型観光の深化」は今後、どう調和していくのだろう。地方都市の姿や営みが持つ多様なポテンシャルを考えるうえでも、時間をかけてウォッチしていく必要性と意義を感じる。

金沢から東へ約58km、富山では、金沢ほどの喜びには染まっていない。背景には、北陸の歴史と文化に根ざす、地域の事情も横たわる。

「とにかく関西へ向かうのが不便になった」。多くの市民が口をそろえる。北陸新幹線開業に伴い、富山―東京間は最短3時間11分から2時間8分に短縮、上越新幹線・越後湯沢での乗り換えが解消された。その一方で、北陸と大阪を結ぶ特急「サンダーバード」は金沢―富山間の運行がなくなり、富山と関西を往来する旅客は金沢での乗り換えを余儀なくされることに。「大阪が遠くなった」不満が、「東京が近くなった」喜びを半ば打ち消している格好だ。

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富山駅に乗り入れる「セントラム」の路面電車。工事がまだ続く

市民の表情が冴えない理由のひとつは、金沢駅と異なり、富山駅一帯の整備がまだまだ続くことのようだ。公共交通の整備に力を入れる富山市は、市街地の大改造を進めている。まちを南北に分断する並行在来線「あいの風とやま鉄道」(旧北陸本線)と私鉄・富山地方鉄道を新幹線とともに高架化、さらに富山駅と富山港を結ぶLRT「ポートラム」と環状の路面電車「セントラム」を富山駅で直結させる。新幹線開業に合わせて、セントラムの富山駅乗り入れまでは実現した。しかし、高架化やポートラムとの直結が一段落するのは7年後という。

金沢への屈折した感情

7月初めに訪れた富山駅では、土産品の仮設販売所の撤去がようやく終わり、とやま鉄道の仮設ホームが新幹線ホーム隣で稼働していた。これらの光景が開業ムードに水を差すと感じた利用者は少なくないようだ。

しかし、市内でヒアリングを重ねるうち、富山のまちの成り立ち、そして金沢との「距離感」に由来する屈折した感情が、新幹線に対するやや冷めた視線の要因であるように感じられてきた。

城下町としての富山は戦国期にさかのぼる歴史を持ち、今も富山城趾公園が市中心部に残る。だが、歴史的街並みを大きな財産とする金沢とは対極の苦悩を味わった。太平洋戦争終結の直前、1945年8月2日に米軍の空襲を受け、市街地のほとんどが焦土と化した。一方で、インテックや不二越、日医工といった企業の本社が立地し、「ものづくりのまち」を強く自負する。新幹線開業の意義を否定しないまでも「金沢ほどには、新幹線で観光振興を図る必要はないのでは」という趣旨の言葉を市内で何度も耳にした。

それらの言葉の裏に、大きな果実を得つつあるように見える金沢への反発、おそれを感じることもあった。地元のメディア関係者は開業後の心境を「金沢に圧倒される思い」と口にする。2015年6月19日付朝日新聞記事(電子版)によると、あるホテルチェーンの同年3?5月の客数は、富山市内が前年比10?20%増なのに対し、金沢市内は25?40%増。東北新幹線・八戸開業時や新青森開業時に比べれば、富山の実績は十分にうらやむレベルだ。しかし、金沢が「その上」を行ってしまうため地元は喜ぶに喜べない――。

富山県には、新幹線開業前から有形無形の「新幹線効果」が現れていた。YKKグループは本社機能の一部を東京から富山県黒部市へ移し、川崎市のユースキン製薬は2016年、富山市に新工場を稼働させる。富山駅前の地価は2014年、前年より6.5%アップした。企業進出や地価のアップは、東北新幹線・新青森開業時などにはみられなかった現象だ。ただ、新工場の進出は金沢市でも事例があるうえ、金沢駅前の地価上昇率は商業地として全国トップの15.8%に達していた。

新幹線開業は失敗だった?

富山藩はもともと加賀藩の支藩として誕生、廃藩置県後もいったん富山県が成立したにもかかわらず、石川県に合併され、再び独立した経緯がある。北陸の中心的都市・金沢を強く意識しつつ、独自の歴史と文化、産業を築き上げてきた富山。新幹線をどう使いこなして、金沢との新たな関係をつくり上げていくのか。

北陸新幹線開業で最も大きな試練に直面している沿線都市のひとつが、金沢と富山に挟まれた富山県高岡市だろう。新幹線駅・新高岡はJR高岡駅の1.8km南方に位置する。中心市街地は高岡駅を挟んで北側に広がり、新高岡駅は水田と住宅地に囲まれている。目と鼻の先には巨大なイオンモール高岡が建つ。市は新幹線開業に備えて高岡駅をリニューアルし、利便性は大きく向上したが、新高岡駅の立地への不満は今もくすぶる。

加えて2014年8月、「かがやきショック」が市を揺すぶった。最速タイプの列車「かがやき」は新高岡に停車させないことをJR西日本が発表、市や経済界が猛反発した。「新高岡は能登や飛騨への玄関口。当然、最速タイプが停車するという想定で二次交通などの準備を進めていた」。高岡商工会議所の布村雅之企画調査役は振り返る。

JR時代、高岡駅には北陸本線の全特急列車が停車していた。高岡は、人口や都市機能では金沢、富山の両県庁所在地に及ばないながら、鉄路に関する限りは両都市と「同格」だった。だが、新幹線開業に伴い金沢以東の北陸本線はJR西日本から経営分離され、特急列車そのものが姿を消すことに。しかも、金沢駅、富山駅と異なり、高岡駅には新幹線が乗り入れない。そこへ追い打ちを掛けるように、最速タイプの通過が決まった。発表の直後、2014年9月に筆者が高岡市を訪れた際、乗り合わせたタクシーの運転手は「駅は離れた所にできるし、『かがやき』は停まらないし、新幹線開業はもう失敗に終わったようなもの」とうなだれた。市民の落胆は大きかった。

しかし、失意の底から高岡は新たな模索を始めた。「かがやき」停車を求めて市内の五十数団体が初めて結束し、周辺の市にも協力を呼びかけてJRへの要望活動を展開。一方では、各駅停車タイプの「はくたか」でつながる各都市との連携に着手した。活動が奏功する形で、JR西日本は同年12月、臨時の「かがやき」1往復を新高岡に停車させると発表し、市内の不安は底を打った。

2015年7月に高岡を訪れた時には、まちは自信や落ち着きを取り戻しているように見えた。「危機感を共有したことで地元が団結できた。関東や北陸新幹線沿線とつながりを深めている。この夏は長野商工会議所とも初めてゴルフコンペをする予定です」と布村調査役。「かがやき」の通過によって、高岡は「東京直結」「最短〇〇分」という呪縛を逃れ、沿線同士の連携に目を向ける機会を得たともいえる。

まちづくりの魅力をアピール

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「たかおかトートバッグ」と観光マップ

地道な努力も欠かさない。「伝統工芸のまち」という特色に加えて、国宝・瑞龍寺や加賀藩由来の歴史的建造物に恵まれた城下町としての横顔を生かし、いわば金沢と富山の間を行く形で、まち歩きの魅力をアピールしている。それを象徴するのは、観光名所・高岡大仏をあしらった100円の「たかおかトートバッグ」だ。新高岡の観光案内所で購入し、中に入った地図を手にまちを歩けば、商店街でいろいろな特典を受けられる。デザインしたのは富山大の学生たちだ。

北陸新幹線はまだ走り始めたばかりだが、長野―北陸間の新たな需要、中部・北陸一円の旅客流動、新潟県の立ち位置など、いくつもの着目点がある。長野市や新潟県上越市を含め、沿線の再編やまちづくりが今後どのように進むのか。興味は尽きない。


金森

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