セブン&アイが展開する、買い手市場の時代に売るための戦略とは

「地産地消経済とは価格競争に陥らない経済」だと話してきた。 今日のDIAMOD onlieに、地産地消経済に通じる興味深い記事が掲載されていたので紹介する。

セブン&アイが展開する、買い手市場の時代に売るための戦略とは

鈴木敏文 [セブン&アイ・ホールディングス 名誉顧問]
http://diamond.jp/articles/-/101520
Photo by Masato Kato

「客層」という言葉に縛られるな
売れる小売りが実践する勝利の方程式とは

 ユニクロさん、ニトリさんなど今、小売りで伸びているのは自主マーチャンダイジングに取り組んでいる会社ばかりだ。問屋に頼らずに、自ら売る商品を開発して販売している。

 私は、自主マーチャンダイジング以外に、小売りが生き残れる道はないと考えている。売り手市場から買い手市場への転換は、ものが豊富になってきたことを意味する。そうなると、お客さまは自分の気に入ったデザインやサイズの商品しか買わないから、「平均的などこにでもあるもの」は売れないのだ。

 セブン-イレブンも自主マーチャンダイジングで成長した会社だ。常にお客さまが求めているものや品質、サービスを探究して形にし、お客さまの評価にさらしてきた。そして私は、このセブン-イレブンで培った自主マーチャンダイジングのノウハウを、グループ各社にも導入しようとしてきた。

 セブン&アイグループのなかでも、自主マーチャンダイジングに取り組み始めて成果が出てきた例がある。たとえば、百貨店のそごう・西武で展開している「リミテッド エディション」シリーズ。衣類や雑貨などでデザイナーとコラボレーションした独自商品を展開しているが、はっきりと成果を確認できるまでになっている。

 つまり、伸び悩んでいる百貨店のような業態であっても、新しい舞台をつくり、新しいものを自ら創造すれば、再び成長することが可能なのだ。そして、やはりと言うべきか、従来通りに問屋さんから仕入れた、伊勢丹さんにも三越さんにもあるような商品の分野は伸びていない。事情は他社でもまったく同じだろう。

 お客さまのニーズという意味では、現代は「客層」という言葉は通用しない。1人のお客さまがコンビニにもスーパーにも、そして百貨店にも行くからだ。だからグループ内で「プライベートブランドをつくりたい」という話が出たとき、「それはいいことだ」と即座に承諾した。ただし、「つくるのならば、グループのどの店でも、同じ価格で売れるものにしろ」とだけ条件を付けた。

 この条件には全員が反対した。スーパー側は「価格を下げないと売れない」と言うし、百貨店側は「スーパーやコンビニで売るような商品は、デパートでは売れない」と言う。コンビニ側はコンビニ側で、「同じ商品だとスーパーがすぐに安売りをするから反対だ」と言う。

 だが私は、「いいから私の言うとおりにやってみてくれ。『自分たちの客層』などと言っている時代ではないはずだ」と押し切った。そうして誕生したのが「セブンプレミアム」だ。食パン、惣菜、乳製品、冷凍食品、お菓子、ドリンク類等々。どの業態でも同じ商品を同一価格で売っているが、これらは実によく売れている。

 私は、自分で商品を仕入れたこともなければ売ったこともない。レジの打ち方さえ分からない。だからイトーヨーカ堂の社長に就任したときも、「鈴木は人事や管理ばかりをやってきたから、現場のことは分からない」と陰口を叩かれたものだ。

 しかし私も1人のお客であるから、お客さまの立場で考えてみることはできる。商売は、お客さまの立場で考えるものであって、売り手側の常識で考えるものではない。だからお客さまが「よいと感じるだろうな」と思うこと、「便利だろうな」と思うことをやれば支持されると考えた。それを具体的なビジネスモデルとして形にしたのが、自主マーチャンダイジングなのだ。

「今までにない新しい商品をつくる」には
どういう発想で取り組むべきか?

 自主マーチャンダイジングは、お客さまの立場で常に新しい商品を追究する。新しい商品とは、「今までまったくなかったもの」と解釈しなければならないが、さりとて「見たこともないような奇抜なもの」である必要はない。たとえば、おにぎりにしてもおでんにしても、日本では昔から食べられてきた食品だ。しかし、それらは自宅でつくるか、おでんならば一杯飲み屋で楽しむもので、いわゆる小売店で買える商品ではなかった。それをセブン-イレブンで販売することにしたという意味で、「今までになかったもの」なのだ。

 銀行もしかりだ。キャッシュディスペンサー(CD)から始まった銀行サービスの機械化・自動化はATMへと発展していった。しかし銀行の支店での稼働時間は限られていたから、一般の勤め人が利用するには仕事の合間に抜け出すか、外出先で利用するしかない。振り込みもまったく同じで、午後3時までに銀行にいかないと対応してもらえない。

 ならばセブン-イレブンで24時間対応にしたら便利だろうと考えて、アイワイバンク銀行(現在のセブン銀行)を設立することにした。当時、銀行業界の人たちは、無謀な挑戦だと考えていたようで、「無理だ」と言われたりもした。しかし、そもそも私は既存の銀行を自前で作ろうと考えていたわけではない。預金を降ろせ、お金を預けられ、振り込みができる。それだけの銀行だ。

 おにぎりやおでん、ATMサービスのように、お客さまの立場でものを見て、「こうだったらいいのに」と考えたものを現実化することが、セブン-イレブンの自主マーチャンダイジングだ。

 ニトリさんの似鳥昭雄社長は、新しいマーチャンダイジングのあり方に昔から強い興味を持ち、まだライバルの家具屋さんがたくさんあるうちから、自分1人で東南アジアなどをこつこつと回っていた。

 私は似鳥さんによく言うのである。「似鳥さんは、渥美先生(渥美俊一氏、日本のチェーンストア革命を推進した経営コンサルタント)を信奉しているけれど、根本的に今のニトリさんは、似鳥さん自身の商品に対する図抜けた興味があったから発展した会社だ。あなたは商品に興味を持ち、つくることに興味を持ち、それに対して熱烈に取り組んできた。だから今日があるのだ」と。

 似鳥さんは、「いやぁ、チェーンストア理論から離れるわけにはいかない」と言いつつも、「鈴木さんにそう言われると嬉しいし、確かにそう言われればそうかなと思うところもあるんだ」と言う。

 私に言わせれば、似鳥さんの商品に対する興味と、新しい商品を生み出したいという執念がなければ、ニトリさんの成功はあり得なかった。そのために地道に東南アジアを回り続けてきたのだ。

 読者の皆さんもご存じのように、セブン-イレブンの日販は、ローソンさんやファミリーマートさんに対して十数万円の差を付けている。その理由は、商品そのものが違うからだ。商品の違いとは何かと言えば、徹底した自主マーチャンダイジングにこだわっているかどうか、である。

 マスコミはよく「コンビニは飽和状態になった」などと言うが、私に言わせれば同質な店ばかりだから飽和が起きるのであり、常に新しい商品を開発し続けて同質にならなければ、飽和はしないはずだ。

 ただ、セブン-イレブンとて、成功にあぐらをかくようになったらどうなるか分からない。だからこそうまくいったら次、その次と、お客さまが求めている商品やサービスを探し続けなくてはならない。これからの時代は、リアルとネットの融合は必須だ。融合が進めば進むほど、お客さまの利便性は高まる。小売業の次なる目標が「オムニチャネル」であるのは間違いないだろう。

オムニチャネルの胆は
商品開発力そのものだ

 セブン&アイグループで取り組んでいるオムニチャネルは、グループ各社が持っている、あらゆる商品やサービスを一括して扱い、「いつでも、どこでも、お客さまにご提供できるようにする仕組み」だ。すでに10年以上も前から構想は持っていたが、「オムニ=あらゆる」という言葉を聞いたときは、「これだ」と思った。

 オムニチャネルは、「究極の接客」だと考えている。社会の高齢化が進むと、1世帯の家族の数も減ってくるし、1人で食事を作ったりするのは大変になる。そんな時代に、ネットで味が良くて手ごろな値段の弁当を頼み、配達してもらえるのであれば、極めて便利だし経済的に違いない。ファッションだって同じだ。自宅でも近所のセブン‐イレブンでも、そごう・西武の商品を受け取れれば、こんな便利なことはない。

 かくいう私自身は、面倒な操作が嫌いだからネットは使わない。これまた「知らないのに何が分かる」と言われるかもしれないが、ネットを使えなくても、お客さまの立場で考えれば、オムニチャネルが便利なのは間違いないではないか。これは今までにない新しいサービス、価値だ。

「アマゾンさんや楽天さんのような巨人がいるのだから、二番煎じではないか」との批判もある。しかし、オムニチャネルは断じてアマゾンさんと同じではない。アマゾンさんの業態は、運送会社に近い。ネットで注文を受け付けて、倉庫から商品を配送するというビジネスモデルだからだ。

 一方、セブン&アイが進めるオムニチャネルの胆は、商品開発にこそある。グループの各社が自主マーチャンダイジングで魅力ある商品を作り、オムニチャネルに乗せていく。そうすると新しい商品をどんどん開発する意欲も出てくる。

 例えばイトーヨーカ堂は、欠品が怖いし、自分たちにもノウハウがないので、自主マーチャンダイジングへの取り組みにどうしても前向きになれないことは前回も述べた通りだが、ネットが試しの場として機能すればどうか。新しい商品をどんどん出して、それがネットで売れ、リアルの店舗でも売れる。ヒット作が出ればグループ内でも評価され、グループ全体での展開も可能になるだろう。商品開発への挑戦を通じて、自らの体質を変えていくことにこそ、オムニチャネルの真の狙いがある。

 現在のセブン&アイグループの社員たちが、このことをどれだけ理解しているかは、少々疑問だ。資本を投下して、配送ネットワークを整備するものだと単純に理解している社員もいるし、「オムニチャネルが自分たちのビジネスに貢献してくれるかどうか疑問だ」などと評価している社員もいる。

 しかし、貢献してもらえるかどうかなどと、受け身の姿勢で判断するようではダメだ。自分たちで育てることができるかどうか、という話であって、既にできあがったものではないからだ。新しいものを作り続けるには、こうした発想から改めてもらわなければならない。

オムニチャネルは
小売店の常識を根本から変える

 自主マーチャンダイジングを続けるには、「執念」とでも言うべき姿勢が求められる。

 セブン-イレブンは創業以来、40年以上にわたって商品開発と質の向上に、妥協することなく取り組んできた。本格的な赤飯のおにぎりをつくった時は、理想とする味を実現するために釜づくりに1年を費やした。チャーハンでも、すでに売り出していた商品があったが、「やはりこれは違う」と考えてすべてを回収し、本当に美味しいチャーハンをつくるために、同じく釜づくりからやり直した。

 うまくない商品で、お客さまの期待を裏切るようなことがあってはならないし、どこまでも品質にこだわる姿勢は、絶対に失ってはならないのだ。

 それは食料品だけでなく、衣料や生活用品でも同じだ。例えば2014年11月に、そごう・西武はフランスの人気デザイナー、ジャンポール・ゴルチェ氏とゲストデザイナーの契約を結んだ。15年秋からスタートしたセブン&アイグループの新たな衣料品プライベートブランド「セットプルミエ」のゲストデザイナーになってもらったのだ。百貨店でゴルチェ氏の服を購入すれば10万円は下らない。一方、「セットプルミエ」では、アウターやトップスなどを2000円台から2万円程度で販売する。

 今年5月には第2弾として、高田賢三氏とのコラボレーションを発表した。セブン&アイグループ内の百貨店やスーパー、専門店では今後、こうした自主マーチャンダイジングの取り組みが次々に花開いていくことになるだろう。

「新しいものを作る」というと、難しいとばかりに身構えてしまう人も多いが、決してそんなことはない。例えば応接室でお客さまを迎えている時に、通常ならばお茶かコーヒーをお出しするが、お酒が強い人ならば、酒を飲めばもっとリラックスして会話ができる。しかし従来の延長線上で考えれば、お酒は用意していないから出せない。

 そんな日常の何気ないシーンを観察してみると、「こんなものがあったら良いのに」という発想はいくらでも出てくるはずだ。そして、そこをブレークスルーすることが、「今までにない商品を世に問う」ということだ。

 商品を開発してもすぐに店で売れるとは限らない。しかし当初は少量生産でも、ネットは広大な市場であるから、早い段階で大量に売れて採算に乗るかもしれない。オムニチャネルが進化してくれば、店頭のお客さま以外の方々にもアクセスがスムーズにできるようになるわけだから、こうした好循環が構築できるはずだ。

 そうなっていくと、将来的にはコンビニやスーパー、百貨店という業態が今のまま残っていくかどうかも分からない。今は一人勝ちのセブン-イレブンにしても、将来的にも勝ち続けられるかどうかは分からないし、コンビニという業態が残るのかどうかも分からない。

 オムニチャネルでは、店舗は「今そこにある商品」だけを売っている場ではなく、セブン&アイグループで取り扱っている、膨大な数の商品への窓口となる。商品を取りに来ていただければ手数料収入を得られ、店の収益構造にも厚みが増す。つまり、儲かる領域が広がるのだ。

 これまで長らく、小売りとは棚に並んでいる商品を売る商売だった。それは「店」という場が持っている限界でもある。それを打破して、店が別の新しい性質を備えた場へと生まれ変わるきっかけとなるのがオムニチャネルであり、従来の延長線上で考えていては新しい展開は生まれてこない。


金森

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この記事について

このページは、ofoursが2016年9月12日 10:33に書いた記事です。

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