安倍晋三内閣は、国民の60%以上の多くが反対する安保法制を、来週にも参院で強行採決で可決成立させる気配である。また、公明党は平和の党として政権のブレーキ役を担うとしながら、支持母体である創価学会の多くの学会員の反対に耳を傾けることなく、自民党と一体となって強行採決に突き進んでいる。ブレーキ役どころか、まるで下駄の雪である。なぜ、そこまでして、米国の戦争に米軍と一体となって他国で戦争することを可能にする戦争法案を成立させたいのだろうか。
次に週刊朝日に掲載されたイラク戦争の犠牲となっている自衛隊員の記事を転載して紹介する。
イラク派遣隊員29人が自殺 帰還隊員らが語ったPTSDの恐怖
〈週刊朝日〉
2016年2月に安保法制が施行され、南スーダンPKOで自衛隊の武器使用が拡大──。安倍政権が描く青写真が国会で暴露され、衝撃が走った。イラクへの派遣で自衛隊の自殺者は29人にのぼる。その上、武器使用で死のリスクも増し、「捨て駒にされる」と隊員らは訴える。
イラク戦争では、政府はサマワ地域を「非戦闘地域」とし、復興支援活動に03年から09年まで自衛隊を派遣。自衛官に死者は出なかったものの、帰国後に精神面で変調をきたし、自殺した例が多数報告されている。
6月5日、民主党の阿部知子衆院議員が提出した質問主意書への回答で、政府はイラク特措法に基づいて派遣された約5600人の陸上自衛隊員のうち21人、約3600人の航空自衛隊員のうち8人が、在職中に自ら命を絶っていたことを明らかにした。
10万人当たりで換算すると、陸上自衛隊のイラク帰還隊員の自殺者数は38.3人。これは、一般職の国家公務員の21.5人、自衛官全体の33.7人(いずれも13年度)に比べても高い値だ。過去に自衛隊員のメンタルヘルスを担当した防衛省関係者はこう話す。
「派遣前に精神面で問題なしとして選抜された隊員がこれほど自殺しているというのは、かなり高い数字。しかも、これは氷山の一角で、自殺にいたらないまでも、精神面で問題を抱えている隊員が多くいるはず」
その詳細は公表されていないが、29人の自殺者の中には、幹部らも含まれることが、関係者の証言で明らかになっている。
一人は04年から05年までイラクに派遣された、当時40代の衛生隊長(2佐)だ。家族の反対があったものの、医師として現地に赴き、自衛隊員の治療だけでなく、現地で病院の運営も手伝い、時には徹夜の作業が続くこともあった。
それが、イラクから帰還した後にうつ病を発症。やがて自殺願望が出るようになった。首をくくって自殺未遂をしたこともあった。
治療のために入院もしたが病状は改善せず、最期は自らの太ももの付け根をメスで切り、自殺した。遺書はなかったという。
そして当時30代の警備中隊長(3佐)は、05年に妻子を残したまま、車内に練炭を持ち込み、自殺した。警備中隊長は百数十人の警備要員を束ね、指揮官を支える役割で、この中隊長の部隊はロケット弾、迫撃砲などの攻撃を数回受けたほか、市街地を車両で移動中、部下の隊員が米兵から誤射されそうになったこともあったという。
中隊長は帰国後、日米共同訓練の最中に、「彼ら(米兵)と一緒にいると殺されてしまう」と騒ぎ出したこともあったという。
第1次カンボジア派遣施設大隊長を務めた元東北方面総監の渡邊隆氏は言う。
「カンボジアへの派遣以降、海外に派遣された自衛隊員で自殺をした人は59人います。PTSD(心的外傷後ストレス障害)は個人個人に影響があると考えないといけない。『弱い』と言ってしまったら、そこで終わってしまうのです」
(本誌・西岡千史、長倉克枝/今西憲之、横田一)
※週刊朝日 2015年8月28日号より抜粋