性に目覚める頃(大正八年十月)
室生犀星
この犀川の上流は、大日山という白山の峰つづきで、水は四季とともに澄み透って、瀬にはことに美しい音があると言われていた。私は手桶を澄んだ瀬につき込んで、いつも、朝の一番水を汲むのであった。上流の山々の峰のうしろに、どっしりと聳(そび)えているひだの連峰を靄(もや)の中に眺めなら、新しい手桶の水を幾度となく汲み換えたりした。
金沢の西、野々市方向に犀川大橋を渡ったたもとに高野山真言宗のお寺、雨宝院がある。この雨宝院前にある案内板に冒頭の文章が記されている。
室生犀星は雨宝院の住職の養子として、幼少期はこのお寺で過ごした。雨宝院には室生犀星に関連した品々が展示されている。
金森