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コンピューター関連犯罪の諸相

コンピューター関連犯罪の諸相

 コンピューターに関連する多様な犯罪が生まれてきている。
 その多様な犯罪の手口と罰を見てみよう。

一 不正アクセス関連犯罪

1 不正アクセス
 知人のID及びパスワードを盗用して、知人のホ-ムペ-ジを削除、抹消行為
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 他人のID番号などを使ってホームページを削除した女子大生を逮捕
 香川県警高松北署と県警生活環境課は2月23日、他人のホームページを削除した大阪市の女子大生を不正アクセス行為禁止法違反の疑いで逮捕した。この女子大生は、2004年12月21日に友人の高松市の女性が開設したホームページに、この女性のID番号やパスワードを入力してアクセスし、ホームページを削除した疑い。女子大生は容疑を認めており、「けんかして腹が立った」などと話しているという。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050225-00000007-vgb-sci
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メールのぞき見500回 女性会社員を書類送検

 仙台東署などは10日、夫の知人の女性のメールを、少なくとも約4カ月で500回以上も“のぞき見”したとして、不正アクセス禁止法違反などの疑いで、妻の女性会社員(37)=仙台市青葉区=を書類送検した。
 調べでは、女性会社員は仙台市宮城野区の女性(35)のメールのIDとパスワードを入手、2005年4月ごろから7月ごろにかけ、不正アクセスを繰り返し、女性のメールを盗み見た疑い。
 女性会社員は「2人(被害女性と夫)の仲が気になり、やりとりが知りたかった」などと供述している。
 被害女性が夫の携帯電話に送信していたメールから、アドレスなどを知ったとみられる。
(共同通信) - 7月10日23時14分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060710-00000215-kyodo-soci
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イ 不正アクセス禁止法違反の典型的犯罪である。
ロ 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金 


不正アクセス禁止法8条
 次の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。  
一 第三条第一項の規定に違反した者  
二 第六条第三項の規定に違反した者
同法3条
 何人も、不正アクセス行為をしてはならない。

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ネットバンキングで95万円詐取=不正アクセスで3人逮捕-長野県警
 他人のインターネットバンキングのIDやパスワードなどを不正に入手し、口座から預金約95万円をだまし取ったとして、長野県警生活安全課などは1日、詐欺や不正アクセス禁止法違反などの疑いで、埼玉県川口市安行領根岸、無職冨永貢容疑者(34)ら3人を逮捕した。 
(時事通信) - 6月1日21時1分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060601-00000177-jij-soci
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 銀行強盗ではなく、不正アクセスによる金員詐取が増加するか。
 IT時代の"銀行強盗"??
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スパイウエア詐欺 「専門知識悪用」懲役4年判決
 パソコン内の個人情報を盗み取るソフト「スパイウエア」を作製・使用して、ネット銀行の他人の口座から約570万円をだまし取ったとして、不正アクセス禁止法違反と電子計算機使用詐欺などの罪に問われた無職、竹川敦被告(31)の判決公判が20日、東京地裁で開かれ、白石篤史裁判官は懲役4年(求刑同6年)を言い渡した。
 白石裁判官は「専門的知識を自分の利益のために悪用した犯行に酌量の余地はない」などと述べた。
(産経新聞) - 6月21日3時21分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060621-00000012-san-soci
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<不正アクセス>他人のHP改ざん、中1少女を補導

 他人のホームページを改ざんしようと不正アクセスしたとして、愛知県警生活経済課と春日井署は22日、栃木県の中学1年の少女(12)を不正アクセス禁止法違反容疑で補導した。全国的に未成年者による不正アクセス事件は増えているが、ページ改ざん目的で中学生が摘発されるのは異例。
 調べでは、少女は7月20日、愛知県春日井市の女性(24)が作成するアクセサリー販売などを目的としたサイトに不正アクセスした疑い。閲覧時に表示される女性のIDからパスワードを推測して侵入したという。
 少女はこのサイトでアクセサリーを購入したが、品物が気に入らずトラブルになった。女性がサイト内の「取り引きをしたくない人」一覧に少女のネット上の呼称を載せたことに腹を立て、不正アクセスして自分の呼称を削除したうえ、女性を中傷する書き込みをしたという。
 愛知県内の未成年者による不正アクセスの検挙・補導件数は、04年に1件、05件に4件で、今年もこれで3件。いずれもオンラインゲームに他人のIDとパスワードで不正アクセスしていた。【松岡洋介】
(毎日新聞) - 9月23日14時24分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060923-00000018-mai-soci
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二 欺罔、誘導、詐欺犯罪関連

1 アダルトサイト登録、異性交際メール詐欺など
 アダルトサイトにおいて、サイト訪問者に対し、勝手に「入会登録ありがとうございます。入会金をお支払い下さい」というようなメールを送信して、入会金の支払いを請求する行為
 最近、これに類似した多分、詐欺まがいと思われるメールが多発信されている。
・ 逆援助交際(男性に女性との交際を求め、対価を支払うというもの)勧誘メ-ル
・ 女性からの交際要請を装ったメールなど
・ 女性からの交際要請メールの転送を装ったメールなど
 これらのメールは、日々巧妙になってきている。送信者名を普通の個人のように仮想する、あたかも知人からのメールのようなスレッドを入れる、リターンメールに仮想するなど多種多様である。
イ 刑法の詐欺に該当する可能性がある。
ロ 10年以下の懲役刑


(詐欺)
刑法246条
 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(恐喝)
刑法249条
 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。


(電子消費者契約に関する民法の特例)
3条
 民法第九十五条ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。
  ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。

2 フィッシング詐欺等
 銀行等の企業からのメールを装い、メールの受信者に偽のホームページにアクセスするよう仕向け、そのページにおいて個人の金融情報(クレジットカード番号、ID、パスワード等)を入力させるなどして個人の金融情報を不正に入手し、このように不正に入手したID、パスワード等を利用して、不正行為、犯罪行為に及ぶ。
イ 業務妨害罪、著作権法(複製権侵害、公衆送信権侵害等)違反、詐欺等の犯罪に発展していく。
ロ 
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ヤフー装い「フィッシング詐欺」、1人逮捕7人逮捕状
 インターネットオークションを運営する「ヤフー」を装って、偽メールで個人情報をだまし取る「フィッシング詐欺」の手口で、会員になりすまして架空出品し、代金をだまし取ったとして、京都、熊本、静岡の3府県警は(2006/5)30日、主犯格とみられる東京都渋谷区の無職松岡貴之容疑者(34)を詐欺、不正アクセス禁止法違反容疑で逮捕し、東京都内などの男6人、女1人の計7人について同容疑で逮捕状を取った。
 松岡容疑者は容疑を認めている。府警は、約700人から計約1億円を同様に詐取したとみて実態解明を進める。
 調べでは、松岡容疑者ら8人は共謀、会員に不正アクセス防止などと偽ってIDなどの再登録を求める偽メールを送信。指定先に接続すると、本物そっくりに偽装した画面から入力できるようにし、4月6日、接続してきた福島県郡山市の会員のIDやパスワードで、架空の音響機器を出品、落札した東海地方の男性に、指定する口座へ25万円を振り込ませ、詐取したなどの疑い。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060530i506.htm
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 14歳、フィッシング容疑で書類送検 未成年者立件は初 2006年05月30日
 インターネット上にゲーム会社の偽ホームページ(HP)を作り、アクセスしてきた約90人の個人情報を盗み取るフィッシング行為をしたとして、警視庁は30日、名古屋市内に住む中学3年の少年(14)を不正アクセス禁止法違反と著作権法違反の疑いで書類送検した。未成年者によるフィッシング行為の摘発は、全国で初めてという。
 調べでは、少年はネットを使った対戦ゲームなどを運営している都内のゲーム会社のHPに似せたページを半年をかけて作成。今年2月下旬から3月中旬、だまされてアクセスしてきた94人のIDやメールアドレスを入力させて盗み取った上、そのIDなどを使ってゲーム会社のHPに約350回、不正にアクセスした疑い。少年は入手したIDで他人になりすまし、ゲームを繰り返していたらしい。
 この少年は「他人が対戦ゲーム内で使っているアイテムが欲しかった」などと話しているという。
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY200605300195.html
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三 スパム関連

1 偽送信者情報の送信
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 迷惑メール大量送信で逮捕 千葉県警、改正法を初適用

 他人名義のメールアドレスを使い、出会い系サイトの広告メール計約300万通を無差別に送信したとして、千葉県警生活経済課は25日、迷惑メール防止法違反(送信者情報を偽った送信の禁止)容疑で、会社員川端智和容疑者(29)=東京都世田谷区奥沢=を逮捕した。
 警察庁によると、送信者情報を偽る迷惑メールに、業務改善命令を経ず罰金や懲役刑を科すことができる同法の改正法(昨年11月施行)を適用するのは全国初。
 調べでは、川端容疑者は昨年11月14日ごろから約1週間に、複数の他人名義や架空のアドレスを使って6回にわたり、計約300万通の出会い系サイトの広告メールを送信した疑い。
(共同通信) - 5月25日20時38分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060525-00000257-kyodo-soci
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特定電子メールの送信の適正化等に関する法律

(送信者情報を偽った送信の禁止)
第六条  送信者は、自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として、電子メールの送受信のために用いられる情報のうち送信者に関するものであって次に掲げるもの(以下「送信者情報」という。)を偽って電子メールの送信をしてはならない。
一  当該電子メールの送信に用いた電子メールアドレス
二  当該電子メールの送信に用いた電気通信設備(電気通信事業法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。)を識別するための文字、番号、記号その他の符号
第三十二条  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一  第六条の規定に違反した者
二  第七条の規定による命令に違反した者


 上記法律は、「送信者情報を偽り送信した場合」を処罰するということとなっている。
 スパムそれ自体の処罰ではない(可罰的なスパムとそうでないスパムの線引きが困難であるという立法政策的なものと推測される)。

四 掲示板関連犯罪

1 掲示板等に貼り付けられた「わいせつ図画公然陳列等」その他掲示板関連犯罪がある。

2 これらについては、大阪弁護士会所属奥村徹弁護士のブログに、論点や裁判例が充実した内容で掲載されている。必見である。
 http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20060626/1151294117

3 論点など
   作為義務の根拠

   作為義務の内容
掲示板管理者の作為義務とその特定(奥村弁護士ブログより)

 作為義務の選択肢としては、

①画像管理人たる者は、違法画像の投稿を阻止すべく配慮する義務があるにもかかわらず注意義務を怠り児童ポルノ画像が投稿される危険性を認識しながら画像掲示板を開設した責任

② 管理者は違法画像を発見したら即時に削除する義務があるにもかかわらず、自己が管理する画像掲示板に児童ポルノ画像が存在することを認識しつつ放置した責任

③ 管理者たる者常時掲示板を監視して違法画像が掲載されないよう配慮する義務があるにもかかわらず、それを怠り、違法画像が掲載された責任

などがありうるところであり、いずれの義務違反について責任を問うのかを明らかにしなければならない。(①は幇助であり、②は状態犯の事後従犯であり、③は過失責任である)


   作為義務の存否
   作為義務違反の有無
   訴因変更手続きの要否など訴訟法関連の記載もある。

(奥村弁護士ブログより)
そもそも、不真正不作為犯が成立するためには、「結果発生を阻止すべき作為義務を有する者が、結果発生ほぼ確実に阻止し得たにもかかわらず、これを放置し、かつ、要求される作為義務の程度及び要求される行為を行うことの容易性等の観点からみて、その不作為を作為による実行行為と同視し得ること」が必要なのであるから、訴因上も「結果発生を阻止すべき作為義務を有する者が、結果発生ほぼ確実に阻止し得たにもかかわらず、これを放置し、かつ、要求される作為義務の程度及び要求される行為を行うことの容易性等の観点からみて、その不作為を作為による実行行為と同視し得ること」が具体的事実をもって記載されていなければならない。

 また、不真正不作為犯は過失犯と同様に「開かれた構成要件」であるから、「罪となるべき事実」では、既に見たように、作為義務の内容、作為義務の発生根拠、作為可能性、作為犯と同視すべき事情が適示されていることを考えると、訴因においても、それらを特定しなければならない。


投稿者 goemon : 2005年02月27日 08:27

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