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はじめに

 コンピューターが私たち社会生活のなかで重要な位置を占めるに伴い、コンピューターの社会的機能の保護、コンピューターの電磁的記録を保護する新たな電磁的記録保護の諸規定が刑法に設けられるに至った(刑法161条の2,同法163条)。
 そして、コンピューター社会に突入するに至り、不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成11年8月13日法律第128号・不正アクセス禁止法)が制定された。
 コンピューターの根幹にあるコンピュータープログラム、コンピューターシステム、情報の世界を「デジタル世界」と呼び、これに対立するいわば「もの世界」の言葉や表現を「アナログ世界」と呼ぶことが許されるなら、上記不正アクセス禁止法は、まさにデジタルの世界に入り込んだアナログ法律と表現できるのかもしれない。

 不正アクセス禁止法の条項は、アナログ表記により、デジタル世界の犯罪行為を規定しているのである。それがためか、不正アクセス禁止法が禁じている「不正アクセス行為」とは、「何なのか」、その理解は必ずしも簡単なものではないように思える。
 今、まさにACCS事件において、「不正アクセス行為とは、何を意味するのか」が刑事裁判において、争われているところである。
 
 本書は、情報技術(IT)の素人でありアナログ人間である著者が、七転八倒しながら前記の新設された刑法の条項や不正アクセス禁止法をどのように理解しょうと努めているのか、またどのように理解しているのかを記載することにより、IT技術者である、いわばデジタル世界の人々に、これらコンピューター犯罪を定める法律をアナログ的に理解して貰うとともに、法律初学者の方にも、不正アクセス禁止法等の問題点をかいま見て貰うことを目的としている。
 また、不正アクセス禁止法が禁止している「不正アクセス行為」 とは何か、その判定基準はどのようなものか等にについて、明確に指摘した論考は見あたらない。本書は、このような問題点について、明快に判定基準を明示している。情報保護の担当者らに必携の書である。なぜなら、不正アクセス行為の意味を理解せずして、コンピューターセキュリティの問題を解決することは片手落ちとなるからである。

 本書がIT技術者と法律初学者の参考となり、「デジタル犯罪論」という範疇を意識することが、今後のコンピューター社会における刑罰法規の運用と理解に必要であることを知って頂ければ、幸いである。

 本書の目的は上記に述べたとおりのものであり、刑事法の解釈議論をする書籍ではない。従って、本書の記載はITの分野においても、法律の分野においても不正確かもしれない。書籍として出版できるほどの内容はないかもしれない。しかし、誰かが架けなければならない。「IT技術者と法律家の架け橋」という本書の目的には忠実である。

 法律解釈は変遷し、また同一の事項についても多様な解釈がなされている。本書に記載された解釈はひとつの考え方であるということ、他の解釈もなされていることに留意して欲しい。これらの注意を喚起するために、注書き欄に、判例や他の解釈論をも付記しておくこととする。

 なお、本書は平成17年1月13日、大阪学院大学情報学部・情報学部講演会において講演した「インターネットと犯罪」という演題の講演録に加筆訂正をしたものであり、同大学情報学部長樹下行三教授及び経済学部長白川雄三教授にご報告する。
 また、本書を記載するにあたり、ITの専門家である(有)オブアワーズの金森喜正氏の助言と監修を受けたのみならず、Blog作成までの作業を担当して頂いたことを付記する。

投稿者 bentenkozo : 2005年01月04日 16:41

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