ウイニー事件に思う: 2004年11月アーカイブ
ウイニーを、技術的な側面から考えると、ネットワーク資源への負荷を分散させて、資源を有効に活用するための技術の一つと言えるのではないだろうか。
ネットワークで結ばれているコンピュータが持つ資源なり能力を、ばらばらに使うのではなくて、それらを連携させて全体として有効に使おうという発想であり、それに係わる技術が研究されている。代表的なもものに、分散型データベースとか、グリッドコンピューティング技術といったものがある。
情報をサーバ一と言われるネットワーク上の節になるようなコンピュータが持つデータベースに一極集中的に格納して、すべてのものがそれを利用するというモデルではなくて、ネットワークに接続されている複数のコンピュータに分散格納し、それらを連携させながら有効に利用しようという技術とも言えよう。
また、気象予測など複雑な計算が必要な場合、スーパーコンピュータと言われる飛び抜けた能力を持った一台のコンピュータで処理させるのではなくて、同時に並行処理して問題ない処理については、複数のコンピュータで、同時に別々にやらせて、処理結果を連携させて使う。以前から、一台のコンピュータの中で、並列処理させる技術はあるが、これを複数のコンピュータで連携させようというものである。
このコンビュータの分散活用(連携)技術を、不特定多数の個人間の情報交換なり情報共有に利用しようというのがp2p技術ともいえる。
視点を変えれば、これらコンピュータの分散技術の研究開発は、ウイニー事件があろうとなかろうと、多くの技術者がしのぎを削って続けてきているし、今も続けられているのではないだろうか。
技術開発の側面から考えれば、これらの分散処理技術を、不特定多数を対象とする利用モデルに適用、応用するときの問題点が、今回のウイニーによって、表面化したといった捉え方もできる。ウイニーの情報共有技術は、p2pとして社会に仕組み込むには、まだ未熟な技術、あるいは社会的なバランスを取りにくい技術とも考えられる。p2pとして、今後解決していかないといけない技術的課題が、ウイニーによって具体的に明らかになってきたと捉えることもできる。技術者はこれら課題を解決すべく、今も研究開発を続けているのではないだろうか。
確かに、ウイニーを利用したい人達は利用を萎縮することになったかも知れない。しかし、社会に一旦放たれてしまったものは、より悪用され、アングラ化していくのかも知れない。これを防ぐ技術もまた必要になり、これもまた技術者によって開発されていくものと思う。いたちごっこのようでもあるが。
さて、ウイニー弁護団は、冒頭陳述で、「技術者は萎縮している」とし、逮捕は不当と主張している。また、その不当性を立証するとも主張している。
弁護団は、世の中の多くの技術者が、分散コンピューティングの技術開発で萎縮していることを、公判の中で、立証するということであろうか。弁護団が萎縮しているとしている研究開発は、私が認識している技術とは違うのかも知れない。この点も含め、今後弁護団が公判でどう立証していくのか、大変興味が持たれるところである。
(私としては、今回の事件は被告人が幇助に当る行為をしたかどうかの個別的問題であって、分散コンピューティング技術の不当性なり正当性が問われているとは思っていない。その意味からも、未だ弁護団の弁護方針が見えてこないというか、理解できないでいる。)
今回の事件を切っ掛けに、より大切なことは、情報の分散化処理技術(利用技術を含め)を、個人間の情報交換なり情報共有にどうすれば生かせるのか。また、技術的課題はなにかについて、いろんな側面から専門分野の垣根を越えた検討が必要なのではないだろうか。
かといって、これら技術を利用して、今ある社会の仕組みを破壊しようという発想には違和感を覚える、組できない。また、単に既得権を守ろうという発想ではなにも生まれないだろう。この分散コンピューティング技術を、社会の仕組の中でバランスをいかに取って、個人間の情報交換にどう活かすかを、法律家や情報処理技術者など、それぞれの分野の英知を持ち寄って考えてもらいたいものである。もちろん、ウイニーの技術も個人間の情報共有に寄与する有用な技術であることは間違いないと思う。犯罪としての幇助行為と、技術そのものは区別して論じられるべきだろう。
さて、私が前から言っている疑問を解消するには、検察官、弁護人双方の立証を待つしかないだろう。現在、検察官はウイニー裁判の公判で、公訴事実でいう幇助の立証に向けて、外堀を埋めるように順々に証拠調べをしている段階のようである。
一方、弁護人の冒頭陳述での主張からすれば、弁護人は、ウイニーの社会での有用性を説得的に証明し、社会に組み込むときのバランスを評価し、被告人の行為の正当性を立証するものと思う。弁護人の見識の深さが問われる裁判になるのではないだろうか。今回の裁判の注目点でもある。一般的に、弁護側の立証は、検察官の立証が終わった後になるようである。だとすれば、公判の進み具合からすると、まだまだ先になるようだ。
2006.4.9 追記
ウイニー裁判も21回の公判を重ね、裁判も佳境に差し掛かってきている。ここまでの公判傍聴録を追っての感想を、「ウイニー技術のシーズとニーズ」にまとめた。