ウイニー事件に思う: 2004年9月アーカイブ
もし社会的影響に対してなんの配慮もせずにやった行為であり、その主張が認められて今回の裁判に勝利したとしても、そういった想像力に欠ける研究者に、社会的インフラに供するプログラムの研究あるいは開発をお願いしたいと思う人や企業、研究機関があるだろうか。あたら能力のある研究者の活躍の場が狭められるのではないかと思う。
更紗姫のブログでは、ウイニー裁判に関して、いろんな人がいろいろと議論している。そして、いろんな情報も提供されて、大変参考になる。
その中で、47氏の2Chでの発言を見ることができた。47氏と呼ばれる意味も分かった。そして、なによりその中に私の疑問の全ての答えがあるようにも思えた。今回の裁判のポイントは、この47氏が被告人と同一人物かどうかということではないだろうか。検察官が示す証拠による立証に注目したい。
同一人物とすれば、被告人や弁護人が主張している「技術の進歩のため」とか「国益のため」といった主張は、後から取って付けた空々しい主張に思えてしまう。
ところで、更紗姫のブログでのコメントの中には47氏と被告人が同一人物であったとしても、それを証明できなければ良いのだと取れる論調のものもある。
あるいは、この事件の被害者は、あたかもウイニー開発者であるかのような論調もある。しかし、本件事件の本当の被害者は、ウイニーによって著作権を侵害された人達や、盗撮などをばら撒かれて悩んでいる人達ではないのだろうか。そういった被害者に対して、被告人や弁護人はどう考えているのだろう。技術の発展のためなら、その程度(?)の被害は我慢して欲しいと主張するのだろうか。そしてそれが国益だと主張するのだろうか。
確かに裁判と言うことでは論点がずれているかもしれない。しかし、世界に誇れる技術を開発するために、一般の人達をモルモットにした実験を続けて、それによって被害を受けた人達が沢山いる。その人達に対する気持ちを、ウイニー裁判の中で、被告人、弁護人からぜひ聞きたいと、強く思う。(法律の条文の解釈で、幇助として罰せられないと主張するとしても。そして条文解釈上、幇助とはならず無罪となったとしても。)
ところで、自由人権協会京都の会合で、被告弁護人が「Winny逮捕・起訴の問題点探る 京都で13日に講演会」で講演するそうである。本件被害者についての認識を、ぜひ語って欲しいものである。
被告人弁護人は被告人の開発した技術は大変優れたもので、世界に誇れる技術だと説明している。一方、一般の利用者には、単にプログラムのバク取りの協力をお願いしたということのようだ。
個人的に作ったものを、不特定多数のみなさんに、単に使ってもらおうとしたということだろう。「利用目的は、利用者の判断でご自由に。ただし、著作権違反になる利用はしないいように。と言って、使ってもらっている。」そうであれば、確かに、罪に問われる筋合いなどないと思う。
ウィニーにはファイル共有の効率化の実現のために、驚くべき工夫、技術が盛り込まれている。世界の数多くの技術者が開発にしのぎを削る中、被告は独創的な工夫を重ねることによって、独自で高度の機能を組み込んだウィニーを、たった1人で、ごく短期間のうちに開発した。
もちろん、論文やレポートにこだわる必要もない訳で、自分が開発した技術を世の中の人に知ってもらうなり、役立ててもらうために、ソースコードなり仕様書なりプロトコルなどを世に公開して、技術の有用性をアピールし、他の技術者に使ってもらうとか、他の技術者からも英知を集めて技術をシェープアップするといった方法もあると思う。そういった手法を取って開発して、世の中の役に立てているプログラムは幾つもある。いずれにしても、技術者、研究者として、そういった「技術そのもの」を世に示すことをやっていたという話は伝わってこない。
それに、視点は少しずれるが、被告人を支援するみなさんがウイニーを使って情報を共有しながら支援活動をしているといった話も聞かない。
なぜだろう。素朴な疑問でもある。素朴な疑問には、素朴な答えがあるのかも知れない。
ところで、そもそも、今回のウイニー裁判に特に興味を持ったのは、この事件の弁護士の方が、被告人を支援するために開設したブログで、
彼を弁護し、表舞台に引き上げることは、
今後のプログラマの開発環境や、日本の国際競争においても
重要であると思っています。
ウイニー裁判で、被告人は「技術的なテストを行う目的であった」と主張している。
それを聞いて、直ぐに疑問に思ったことは、
- なぜ実験を学内から始めなかったのだろうか。
- 技術的なテストの目的は何だったのか。学内でもやれないテストとはどういったものがあったのか。
- テスト項目なり、テスト計画なり、テスト仕様なりは明確にしていないのだろうか。(詳細を発表した、しないは別にしても。)
- 実際に使われている社会的インフラをテストに使い、一般の人に実験台になってもらうわけだから、常識的にもテストの目的を発表するなり、なんらかの方法でアナウンスしているのではないだろうか。明確になっているものがあれば見てみたい。
- そして、テスト結果はどうだったんだろうか。どういった問題点があったのだろうか。
- テスト結果をどう評価していたのだろうか。そして、どういった改善をしたのだろうか。
- テスト結果は、テストに参加してくれてた人達(実験台として利用した人達)に報告しているのだろうか。
- 報告しているとすれば、どういった形で報告しているのだろうか。
- 大学の研究者の一員ということだろうから、中間結果なり、経緯をなんらかの論文なりレポートとしていると思うのだが。
- もし、そういった報告書がないとすれば、なぜ ?
- 学内でできない事情があったのかも知れない。その事情が最初の疑問の答えかも知れないが。
私の「ウイニーで実験しようとしたものは何?」について更紗姫のブログが取り上げてくれて、みなさんで議論してもらっています。
私としては、テストの前に「技術的」と付いていたので、「技術的なテスト」とは、「一般の人をモルモットにした技術的な実験」を意図したものかと思って、そのテストの意図なり目的はなんだったんだろうかという疑問から、この記事を書きました。しかし、議論しているみなさんのコメントなどを見ていると、そういった仰々しいものではなくて、個人として作ったプログラムの、単に「バク取りにご協力を」レベルのことを「技術的なテスト」と表現したのかも知れないと思うようになってきました。だとしたら、私の疑問も取り合えずは解消します。しかし、現時点では判断の術もないので、これからの公判を見てということなんだろうと思っています。
昨日、ウイニー裁判の初公判があった。検察官、弁護人双方の冒頭陳述がされ、公判の緒についところである。
検察官の冒頭陳述によれば、
被告人は、価値中立的なソフトを開発、配布していたものではなく、確信犯的に行為に及んでいた。平成15年11月27日の京都府警による被告人方の捜索まで、238回にわたりバージョンアップを繰り返しており、被告人が使用していたウイニーが、受信専用になっており、通常のウイニーよりも多くのファイルを受信できる仕様になっていて、被告人が自己のPCハードディスク内に違法複製著作物を保存していたことからも、被告人の違法性についての認識が裏付けられている。
と主張している。検察官は、著作権違反をさせる目的を明確に持ってやった確信犯的行為と言っている。もし、このことが事実とすれば、限りなく教唆に近い幇助的行為と言えるのではないだろうか。また、検察は、プログラムを作る行為そのものを処罰しようとしているようにも思えない。
一方、弁護人の主張は
の太字にした部分に集約されているように思う。すなわち、プログラムを作ったことで処罰するということは法律違反である。だからウイニーを作ったと言うことで処罰しようということ自体法律違反であり、この裁判自体不当だと主張しているように取れる。
確かに、検察官が、弁護人の主張するようにウイニーというプログラムを作ったことだけを持ってして、幇助と言っているのであれば、被告人の逮捕そのものが不当であったのではないかと思える。
今回の公訴事実の詳細は分からないものの、検察官と弁護人の冒頭陳述では、双方の主張のポイントが微妙にずれていて分かり辛いという印象を持った。
すなわち、検察官が、幇助したから処罰するということに対して、弁護人は、幇助はしていないと直接否認するのではなくて、幇助と言い出すこと自体が法律違反だと主張しているように思える。この点が、分かり辛いという印象に繋がっているのだと思う。
私は今時点では、今までのマスコミ等の報道から、検察官の言うように、被告人の行為は、確信犯的行為ではなかったかという印象を持っている。今後、弁護人の主張が、この印象を拭えるものになるのかどうか注目していきたい。
いずれにしても、双方の主張は、今後の公判で証拠に基づいて立証されていくことだろうから、それらの経緯を見ながら考えるしかないと思っている。