ウイニー事件に思う: 2004年9月アーカイブ

特に、社会的インフラとなるプログラムの研究なり実験となれば、そのプログラムを、なんのために作るのか、なんの目的で実験するのか、その開発なり研究の目的なりのポリシーを明確にしておくことが大切なのではないかと思う。
今回のウイニー裁判を分かりにくくしているのは、被告人の研究者からウイニーを作った目的なり、研究の目的なりに対するポリシーが伝わってこないことにあると思っている。
社会のインフラとして使われるであろうと予想されるプログラムを、社会のインフラを実験場として、不特定多数の人を実験台にして実験(研究)するのであれば、少なくとも研究者は社会に与える影響を想像して欲しいと思うし、想像できる人にやって欲しいと思う。
ウイニー裁判での被告弁護人の主張を聞いていると、単に道具を提供しただけで、社会的影響などは想像もしていなかったと、自ら社会的影響を想像する能力が無かったことを告白しているように聞こえる。本当だろうか。
 もし社会的影響に対してなんの配慮もせずにやった行為であり、その主張が認められて今回の裁判に勝利したとしても、そういった想像力に欠ける研究者に、社会的インフラに供するプログラムの研究あるいは開発をお願いしたいと思う人や企業、研究機関があるだろうか。あたら能力のある研究者の活躍の場が狭められるのではないかと思う。
ウイニー開発者は、ウイニーを作った目的を真摯に主張し、反省すべき点があれば反省することが、社会に対する貢献でもあるし、過ちを転じて福とすることではないだろうか。(もちろん、研究者のポリシーに過ちがあったとした場合だが。)
ウイニーを作ったポリシーを、実験場や実験台とした社会なり、不特定多数の人に対して、しっかりと説明してくれれば、その主旨に対して多くの人から賛同を得られるところも多いのではないだろうか。そして、こうすることこそが「表に出る」ことに繋がるのではないと思っている。
そして、今回の事件を通して思うことは、特に社会的影響が大きいプログラムを研究あるいは開発するに際しては、プログラムそれぞれについて、作る目的なり研究開発のポリシーを明確にした「ポリシーガイドライン」を作って置くことが、後のトラブルに際しても重要であろうと思う。たとえ明文化しないとしても、常に念頭に置いて、意識して作業し、必要なときにはそれを主張することが肝要ではないかと思う。
また、ポリシーガイドラインをどう作るとか、そこにどういった項目を含めるべきかなどに関しては、権力側が明確にすべきとか、法律で定められてないからということではなくて、技術者みずからの英知で、技術者みずからの主張で、作られていくものだと思う。
そして、自らがポリシーガイドラインを考えることが、コンピュータプログラムの技術開発なり研究を萎縮させることに繋がるとも思えない。

更紗姫のブログでは、ウイニー裁判に関して、いろんな人がいろいろと議論している。そして、いろんな情報も提供されて、大変参考になる。

その中で、47氏の2Chでの発言を見ることができた。47氏と呼ばれる意味も分かった。そして、なによりその中に私の疑問の全ての答えがあるようにも思えた。今回の裁判のポイントは、この47氏が被告人と同一人物かどうかということではないだろうか。検察官が示す証拠による立証に注目したい。

同一人物とすれば、被告人や弁護人が主張している「技術の進歩のため」とか「国益のため」といった主張は、後から取って付けた空々しい主張に思えてしまう。

ところで、更紗姫のブログでのコメントの中には47氏と被告人が同一人物であったとしても、それを証明できなければ良いのだと取れる論調のものもある。

あるいは、この事件の被害者は、あたかもウイニー開発者であるかのような論調もある。しかし、本件事件の本当の被害者は、ウイニーによって著作権を侵害された人達や、盗撮などをばら撒かれて悩んでいる人達ではないのだろうか。そういった被害者に対して、被告人や弁護人はどう考えているのだろう。技術の発展のためなら、その程度(?)の被害は我慢して欲しいと主張するのだろうか。そしてそれが国益だと主張するのだろうか。

確かに裁判と言うことでは論点がずれているかもしれない。しかし、世界に誇れる技術を開発するために、一般の人達をモルモットにした実験を続けて、それによって被害を受けた人達が沢山いる。その人達に対する気持ちを、ウイニー裁判の中で、被告人、弁護人からぜひ聞きたいと、強く思う。(法律の条文の解釈で、幇助として罰せられないと主張するとしても。そして条文解釈上、幇助とはならず無罪となったとしても。)

ところで、自由人権協会京都の会合で、被告弁護人が「Winny逮捕・起訴の問題点探る 京都で13日に講演会」で講演するそうである。本件被害者についての認識を、ぜひ語って欲しいものである。

被告人弁護人は被告人の開発した技術は大変優れたもので、世界に誇れる技術だと説明している。一方、一般の利用者には、単にプログラムのバク取りの協力をお願いしたということのようだ。
個人的に作ったものを、不特定多数のみなさんに、単に使ってもらおうとしたということだろう。「利用目的は、利用者の判断でご自由に。ただし、著作権違反になる利用はしないいように。と言って、使ってもらっている。」そうであれば、確かに、罪に問われる筋合いなどないと思う。

初公判での弁護側の冒頭陳述から
ウィニーにはファイル共有の効率化の実現のために、驚くべき工夫、技術が盛り込まれている。世界の数多くの技術者が開発にしのぎを削る中、被告は独創的な工夫を重ねることによって、独自で高度の機能を組み込んだウィニーを、たった1人で、ごく短期間のうちに開発した。
しかし、どうしても引っ掛かってしまう。被告人は、大学で、情報処理(プログラミング?)に係わっていたようである。いわばウイニーのようなプログラムの開発を専門とする技術者あるいは研究者であったのではないかとも思える。そういった環境にある(立場にある)被告人が、「世界に誇れる技術を、なぜ、極個人的な立場で研究(開発?)しないといけなかったのだろうか。」そして、折角の技術を、論文などにして学会で発表するなりして、世の中に示そうとしないのだろうか。
もちろん、論文やレポートにこだわる必要もない訳で、自分が開発した技術を世の中の人に知ってもらうなり、役立ててもらうために、ソースコードなり仕様書なりプロトコルなどを世に公開して、技術の有用性をアピールし、他の技術者に使ってもらうとか、他の技術者からも英知を集めて技術をシェープアップするといった方法もあると思う。そういった手法を取って開発して、世の中の役に立てているプログラムは幾つもある。いずれにしても、技術者、研究者として、そういった「技術そのもの」を世に示すことをやっていたという話は伝わってこない。
それに、視点は少しずれるが、被告人を支援するみなさんがウイニーを使って情報を共有しながら支援活動をしているといった話も聞かない。
なぜだろう。素朴な疑問でもある。素朴な疑問には、素朴な答えがあるのかも知れない。
ところで、そもそも、今回のウイニー裁判に特に興味を持ったのは、この事件の弁護士の方が、被告人を支援するために開設したブログで、
弁護の意義を見いだしにくい事件が多い中で、
彼を弁護し、表舞台に引き上げることは、
今後のプログラマの開発環境や、日本の国際競争においても
重要であると思っています。
と言っているのを見て、引用した部分の意味が理解できなかったのがきっかけであった。今も理解できていない。ひょっとすると、先の素朴な疑問の答えと関係あるのかも知れないと、おぼろげに感じたりもする。これらの点も含め、ウイニー裁判の中で明らかになっていくのだろうか。ぜひ、明らかになって欲しい疑問の一つでもある。

ウイニー裁判で、被告人は「技術的なテストを行う目的であった」と主張している。
それを聞いて、直ぐに疑問に思ったことは、

  1. なぜ実験を学内から始めなかったのだろうか。
  2. 技術的なテストの目的は何だったのか。学内でもやれないテストとはどういったものがあったのか。
  3. テスト項目なり、テスト計画なり、テスト仕様なりは明確にしていないのだろうか。(詳細を発表した、しないは別にしても。)
  4. 実際に使われている社会的インフラをテストに使い、一般の人に実験台になってもらうわけだから、常識的にもテストの目的を発表するなり、なんらかの方法でアナウンスしているのではないだろうか。明確になっているものがあれば見てみたい。
  5. そして、テスト結果はどうだったんだろうか。どういった問題点があったのだろうか。
  6. テスト結果をどう評価していたのだろうか。そして、どういった改善をしたのだろうか。
  7. テスト結果は、テストに参加してくれてた人達(実験台として利用した人達)に報告しているのだろうか。
  8. 報告しているとすれば、どういった形で報告しているのだろうか。
  9. 大学の研究者の一員ということだろうから、中間結果なり、経緯をなんらかの論文なりレポートとしていると思うのだが。
  10. もし、そういった報告書がないとすれば、なぜ ?
  11. 学内でできない事情があったのかも知れない。その事情が最初の疑問の答えかも知れないが。
この点もこれからの公判で明確になっていくことを期待しているのだが、裁判はどういった風に進んでいくのだろうか。注目していきたい。
追記(9/8)

私の「ウイニーで実験しようとしたものは何?」について更紗姫のブログが取り上げてくれて、みなさんで議論してもらっています。
私としては、テストの前に「技術的」と付いていたので、「技術的なテスト」とは、「一般の人をモルモットにした技術的な実験」を意図したものかと思って、そのテストの意図なり目的はなんだったんだろうかという疑問から、この記事を書きました。しかし、議論しているみなさんのコメントなどを見ていると、そういった仰々しいものではなくて、個人として作ったプログラムの、単に「バク取りにご協力を」レベルのことを「技術的なテスト」と表現したのかも知れないと思うようになってきました。だとしたら、私の疑問も取り合えずは解消します。しかし、現時点では判断の術もないので、これからの公判を見てということなんだろうと思っています。

昨日、ウイニー裁判の初公判があった。検察官、弁護人双方の冒頭陳述がされ、公判の緒についところである。

検察官の冒頭陳述によれば、


被告人は、価値中立的なソフトを開発、配布していたものではなく、確信犯的に行為に及んでいた。平成15年11月27日の京都府警による被告人方の捜索まで、238回にわたりバージョンアップを繰り返しており、被告人が使用していたウイニーが、受信専用になっており、通常のウイニーよりも多くのファイルを受信できる仕様になっていて、被告人が自己のPCハードディスク内に違法複製著作物を保存していたことからも、被告人の違法性についての認識が裏付けられている。

と主張している。検察官は、著作権違反をさせる目的を明確に持ってやった確信犯的行為と言っている。もし、このことが事実とすれば、限りなく教唆に近い幇助的行為と言えるのではないだろうか。また、検察は、プログラムを作る行為そのものを処罰しようとしているようにも思えない。

一方、弁護人の主張は

本件起訴は、ウイニーの開発行為そのものを処罰しようとするもので不当である。ウイニーは優れたソフトである。それを被告人は、一人で、ごく短期間のうちに開発した。検察官はP2Pソフトについてあまりにも無理解である。被告人の処罰についての法的根拠が欠けており、だからこそ、検察官は、内容が不明確な幇助を持ち出してきたものである。このような起訴は罪刑法定主義に反する。本件起訴はソフト開発に打撃を与えるものであり、日本の国益に反する。弁護人が、公訴提起そのものを違法とする理由はここにある。

の太字にした部分に集約されているように思う。すなわち、プログラムを作ったことで処罰するということは法律違反である。だからウイニーを作ったと言うことで処罰しようということ自体法律違反であり、この裁判自体不当だと主張しているように取れる。

確かに、検察官が、弁護人の主張するようにウイニーというプログラムを作ったことだけを持ってして、幇助と言っているのであれば、被告人の逮捕そのものが不当であったのではないかと思える。

今回の公訴事実の詳細は分からないものの、検察官と弁護人の冒頭陳述では、双方の主張のポイントが微妙にずれていて分かり辛いという印象を持った。

すなわち、検察官が、幇助したから処罰するということに対して、弁護人は、幇助はしていないと直接否認するのではなくて、幇助と言い出すこと自体が法律違反だと主張しているように思える。この点が、分かり辛いという印象に繋がっているのだと思う。

私は今時点では、今までのマスコミ等の報道から、検察官の言うように、被告人の行為は、確信犯的行為ではなかったかという印象を持っている。今後、弁護人の主張が、この印象を拭えるものになるのかどうか注目していきたい。

いずれにしても、双方の主張は、今後の公判で証拠に基づいて立証されていくことだろうから、それらの経緯を見ながら考えるしかないと思っている。

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