罪と罰(個別量刑の検討)の最近のブログ記事
「刑事訴訟の仕組み」付録
行為A女
銀行オンラインシステムの預金端末機を操作し、同銀行の預金管理電子計算機に、合計70万円の入金があった旨の虚偽の情報を与え、同電子計算機に接続されている記憶装置の磁気ディスクに記録された預金残高をX円とし、不実の電磁的記録を作り、70万円相当の不法の利益を得
A女とD男と共謀のうえ
前同方法により90万円相当の不法の利益を得
A女及びB男は、D男と共謀のうえ
C銀行の振り込み依頼書に、振り込み先をF銀行、受取人欄にG、金額欄に4500万円、振込人欄にH証券(株)と記載して、振込依頼書一通を偽造し
Aにおいて、C銀行関せ担当者に偽造にかかる振込依頼書を交付し、同為替担当者をして為替端末機を操作させて全国銀行端末データー通信システムをを通じ、F銀行G名義普通預金口座に4500万円を振り込み入金させて不法の利益を得た。
「刑事訴訟の仕組み」付録
刑事裁判における量刑は、行為と結果のみならず、被告人の前科前歴、生活状況等犯行に至る経過等の諸事情が斟酌されるべきは当然ではあるものの、量刑の主たる要素が行為と結果であることも否定できない。
「刑事訴訟の仕組み」付録
行為Bほか1名が現在するC会社1階事務室に,ガソリン約4リットル入りのバケツを持って立ち入り,ガソリンをBの全身に浴びせ、ライターで点火して火を放ち,Bの身体を燃え上がらせ,更に同事務室内の天然木目合板張り内壁及び木製間柱等を焼損させ、Bを熱傷死させて殺害
「刑事訴訟の仕組み」付録
- 人をナイフでぶすりと刺し殺す。
- 人を殺す=殺人罪、着衣にナイフで穴を開け、血で染め、使用不能にする=器物損壊罪
- 刑法の構成要件(犯罪の類型)からすれば、上記のようにふたつの犯罪類型に該当し、ふたつの犯罪が成立
- しかし、通常、殺人の場合(方法はいろいろあるけれど)、被害者の着衣を損傷するということは予想されることだから、着衣損壊=器物損壊の点を考慮して、殺人の法定刑は定められていると考えてもおかしくない。
- 器物損壊罪は、殺人罪に吸収されて、独立して成立はしないと考えよう。
- ポイント
- 保護法益(法律が守ろうとする利益)の主体の同一性の有無
- 保護法益の内容
- 通常、想定される範囲内のものかなど
「刑事訴訟の仕組み」付録
- (わかりやすく言えば)複数の、独立した、犯罪
- 複数の犯罪なので、併合して加重して処断刑をだし、処罰する。
- 加重の方法は、最も重い方の刑期の1.5倍の処断刑
10年以下の懲役刑がふたつなら、1.5倍の15年以下で処断する。 - しかし、ふたつの法定刑の合算刑を越えてはならない。
例えば、懲役10年以下と懲役3年以下の罪を併合罪加重する場合
1に従えば、懲役15年以下
しかし
2の制限(合算13年以下)にかかるので、結局、13年以下で処断する。 - 懲役15年以下の刑がふたつなら、
1に従えば、15×1.5=22.5 懲役22年6月以下となるが - 最長制限の20年にひっかかるので、結局、懲役20年以下で処断する。
- 加重方法
- 原則 最も重い刑期の1.5倍以下
- しかし、合算刑期を越えてはならない。
- そして、最長は、20年
- ひとつの犯罪で、死刑又は無期懲役刑を選択したなら、加重はしない。
- 併合の利益
単純に合算したら酷(そうとも言えないか)
「刑事訴訟の仕組み」付録
行為帰宅途中のA子を強姦
上記路上において,同女から財布1個(現金約1万9200円及び鍵等約21点在中。物品時価合計約1万0500円相当)を強奪
帰宅途中のE子を強姦
同女から,同女の差し出した現金1万円を強奪
帰宅して自宅のドアを開けようとしたG子を強姦
同女から手提げかばん1個(現金約9300円及び財布等15点在中。物品時価合計約6万3000円相当)を強奪
帰宅して自宅のドアを開けようとした同女を強姦しようとしたが,発覚を恐れて逃走し,その目的を遂げなかった
帰宅途中のJ子を強姦しようとしたが,何度も懇願されたため,強姦自体は中止
量刑
- 懲役14年(求刑 懲役12年)
- 本件各犯行に至る経緯・動機は,身勝手極まりないもの,全く酌むべきものがない
- 犯行態様も,凶器の所持や暴力団との関係を装って被害者を脅迫するなど悪質
- 結果は非常に重大
- 各被害女性は,その無念はいかばかりか,誠に気の毒
- 第1~第3の各被害女性は,「踏んだり蹴ったり」の状態で,その肉体的・精神的苦痛の大きさは余人には計り知れない
- 恐怖の念が去らず,暗くなると外を出歩けなくなる,出歩くのが怖くなっている
- 男性が近づいただけでピクッとなってしまう
- 若い彼女らのこれからの長い人生において,本件犯行が大きな影を落とすことがないのか,誠に憂慮される
- 第5の被害者の屈辱の思いはいかばかりか
- 被害弁償や慰謝の措置も行っていない
- 各被害者らが,厳重な処罰を望んでいる
- 少年時代に同種の非行歴はあるものの,同種前科はなく,異種前科も平成4年に窃盗罪で懲役1年6か月・執行猶予4年(保護観察付)に処せられた1犯
- 各犯行につき深く反省
- 被告人の刑事責任は非常に重大
- 各犯罪類型ごとに,量刑の幅の最低ラインを考える
- 第1~第3の各犯行=性犯罪と財産犯の最も悪質な犯罪形態である強姦と強盗であって,被害者に落ち度が全くなく,かつ,被害弁償や慰謝の措置がほとんど皆無であることを重視=いずれも懲役5年を下回ることはない(酌量減軽を行うことは全く不適当である。)
- 第4,第5の各犯行=強姦未遂であるとはいえ,強制わいせつ行為は行われており,ことに第5のそれはかなり悪質なものであることに加え,やはり,いずれも被害者に落ち度が全くなく,かつ,被害弁償や慰謝の措置がほとんど皆無であることを重視=第4については懲役1年を,第5については懲役1年6か月を下回ることはない
- これらを合算すると被告人の刑事責任は懲役17年6か月を下回ることはない
- 本件のように,併合罪の関係にある数罪が,いずれも人身に対する罪であって,各被害者の心身にわたる被害が相当深刻であるような場合には,あまりに過大な併合の利益を見積もることは,被害者保護の見地からして相当ではなく・・基本的には,合算刑をベースとして(但し,刑法47条や14条の制約の範囲内で),それに比較的近い範囲内で量刑を行うことが相当
- 本件各罪に共通する強姦(未遂)罪は,女性の性的自由を侵害するというにとどまらず,女性の人格そのものを蹂躙する性質を持つ犯罪であるだけに,なお一層このことが妥当する
- 検察官の懲役12年の求刑は,被告人の罪責やこれに基づく合算刑の最低ラインに比して,軽きに過ぎる・・その意見には到底賛同することができない
- 求刑を上回る注目すべき判決
- 併合罪の場合の量刑について、具体的な量刑指標を判示